暴走した魔法に、〇〇を巻き込んでしまった後…―。
(ぼくのせいだ……)
(頬が青白くなってる……)
カルト「ごめんね……」
雪に飲まれた彼女の頬にそっと触れ、ゆっくりと抱き上げる。
そんなぼくを、ウサギ達が心配そうに見つめていた。
カルト「大丈夫……また来るから……」
(〇〇が元気になったら、きっと……)
(それまで、ぼくが彼女を守ってみせるから……)
一歩一歩雪を踏みしめながら、ぼくは心の中で誓った。
…
……
けれど…―。
(守るって……どうすればいいんだろう……)
カルト「何か食べたい物……言って」
〇〇「ありがとうございます」
城に戻ってから、ぼくは付きっきりで〇〇の看病をしているものの、彼女は困ったように笑いながら、お礼を言うだけで……
〇〇「カルトさん、もう大丈夫ですよ?」
(また、そういうふうに言う……)
(どうしたら、ぼくの気持ちが伝わるのかな……?)
(ぼくは、あなたを守りたいのに……)
〇〇「眠らなくて大丈夫ですか?」
カルト「本……読んでる……」
ぼくはそう言って、手にした本のページをめくった。
〇〇「でも、眠った方が……体に障ります」
カルト「いると、眠れない……?」
〇〇「そういうわけじゃないんですが……」
〇〇が、困ったようにこちらを見つめる。
(上手くいかないな……)
カルト「眠って……」
〇〇「はい……」
ぼくは再び、静かに本のページをめくる。
そうして、しばらく経った頃……
カルト「眠った……?」
ぼくは本を閉じて、静かに寝息を立てる彼女の傍へと近づいた。
(どうしたらあなたを守れるんだろう)
(誰かを守りたいなんて、初めてで……)
混乱した気持ちを落ち着かせるように、〇〇の髪に触れる。
柔らかい髪が、指先から流れ落ちていった。
…
……
(朝になっちゃった……)
一晩中頭を悩ませていたぼくが明るい日差しにわずかに顔をしかめると、〇〇がゆっくりと瞳を開く。
カルト「おはよう……」
〇〇「おはようございます……もしかしてずっと起きていたんですか?」
カルト「本が、面白いから……」
ぼくの言葉に、彼女が困ったような顔をする。
(また、その顔……)
(どうしてだろう。ただ、傍にいて守りたいだけなのに……)
カルト「ご飯……行ける?」
少し悲しくなりながらも、僕は彼女へと口を開く。
けれど……
(体に、力が入らない……)
立ち上がった次の瞬間、足元がふらついてしまう。
〇〇「だっ、大丈夫ですか!?」
カルト「だいじょっ……!」
〇〇「え……?」
大きくふらついたぼくは、彼女を巻き込んでベッドに倒れてしまった。
カルト「ごめん……」
〇〇「いいえ……。 あの……無理しないでください」
(無理……?)
(でも……これぐらいしないと、ぼくはあなたを守れない……)
本気でそう思うものの、〇〇は悲しそうにまつ毛を伏せてしまう。
〇〇「無理をして、体を壊したら……その方が悲しいです」
(ぼくが無理をしたら、悲しい……?)
疑問に思いながら、次の言葉を待っていると…―。
〇〇「私は、そのままのカルトさんが好きなんです」
(えっ?)
(ぼくを……好き……?)
思ってもみなかった言葉に、僕は思わず目を見開く。
すると、〇〇も驚いたような顔をしていて……
(……そう、だったんだ)
カルト「あなたは……本当に温かい人。 触れる部分すべて……心も全部……溶けてしまいそう」
ぼくは笑みを浮かべながら〇〇の頬を撫でた後、強い力に引かれるように、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
(やっと、わかった……)
(〇〇を守るために無理をしても意味がないんだ)
(だって、ぼくが守りたいのは……)
〇〇の体が、どんどん熱くなっていく。
その幸せな熱を感じながら、ぼくは……
カルト「〇〇……」
生まれて初めてその笑顔を守りたいと思った、愛しい人の名前を呼んだのだった…―。
おわり。