明るい光を感じて、重いまぶたを持ち上げた。
◯◯「ここは……」
薄暗い天井が見える。
カルト「気がついた……?」
(この声は……)
声の方に、ゆっくりと顔を横に向けると、炎がはぜる暖炉の向こうで、カルトさんが椅子に座っていた。
◯◯「私……」
カルト「雪に……飲まれて……。 ぼくの……せい……。 あんなに力を使うこと……ないから……」
パチパチとはぜる暖炉の火に照らされたカルトさんの表情は、顔にかかる長い髪に隠されて、うかがい知ることができなかった。
カルト「お詫びに……守らせて」
◯◯「え……?」
カルト「あなたを……守る……」
◯◯「そ、そんなに気にしなくても……」
慌てて起き上がろうとしたその時、腕に痛みが走った。
◯◯「っ…… !」
(そうだ……弾がかすって)
腕に巻かれた包帯を、指でなぞる。
(カルトさんがこれを?)
カルト「せめて、怪我が……治るまで……」
カルトさんが、私を見つめている。
意志の強い眼差しに、私はその言葉を受け入れた。
…
……
それから……
カルト「何か食べたい物……言って」
◯◯「ありがとうございます」
あれからずっと、カルトさんは付きっきりで私の世話をしてくれている。
◯◯「カルトさん、もう大丈夫ですよ?」
カルト「……」
◯◯「眠らなくて大丈夫ですか?」
カルト「本……読んでる……」
◯◯「でも、眠った方が……体に障ります」
カルト「いると、眠れない……?」
◯◯「そういうわけじゃないんですが……」
(カルトさんが無理していないかの方が心配で……)
カルト「眠って……」
◯◯「はい……」
私の心配をよそに、彼はまた本のページを静かにめくった。
…
……
小鳥のさえずりに目を開いた。
カルト「おはよう……」
(カルトさん……?)
昨晩と同じように、カルトさんは椅子に座り本を読んでいる。
◯◯「おはようございます……もしかしてずっと起きていたんですか?」
カルト「本が面白いから……」
力なく笑うカルトさんの顔には、疲れがにじんでいた。
(絶対……嘘だよね)
カルト「ご飯……行ける?」
◯◯「はい……」
カルト「じゃあ……」
立ち上がったカルトさんが、フラフラ歩き出した。
◯◯「だっ、大丈夫ですか!?」
カルト「だいじょっ…… !」
カルトさんが言いかけたその時…ー。
◯◯「え……?」
カルトさんは、私を巻き込んでベッドに倒れ込んだ。
◯◯「カルトさん……?」
ゆっくりと起き上がるカルトさんに思わずドキドキしながら、私も身を起こした。
カルト「ごめん……」
◯◯「いいえ……」
まだ、カルトさんの温もりが肌に残っている。
◯◯「あの……無理しないでください」
カルト「でも、あなたを……守れない」
◯◯「無理をして、体を壊したら……その方が悲しいです」
カルト「◯◯……」
◯◯「私は、そのままのカルトさんが好きなんです。 あ…ー」
ごく自然に出た言葉に、カルトさんだけではなく私自身も驚いていた。
カルトさんが、澄んだ目を見開く。
そして……
◯◯「っ…… !」
窓から差し込む明るい光の中で、彼が優しく微笑んだ。
(初めて……カルトさんが笑ってくれた)
私の頬に、冷たい手がそっと触れる。
指が、頬の感触を確かめるように撫でていく。
カルト「あなたは……本当に温かい人」
優しい囁き声に、私の胸が音を立て始める。
カルト「触れる部分すべて……心も全部……溶けてしまいそう……」
◯◯「カルトさん……」
次の瞬間……
ふわりとカルトさんの顔がせまり、冷たい唇が重なった。
◯◯「っ……!」
カルト「溶けて……しまいたい……。 あなたの……熱なら」
本当にカルトさんを溶かしてしまいそうなほどに、私の体が熱くなっていく。
カルト「◯◯……」
冷たい唇が、熱を帯びて私の名前を囁く。
窓から、空を舞う雪が朝日にきらきらと輝いて見えた…ー。
おわり。