次の日……
カルトさんに連れられ、城から少し離れた雪原へとやって来た。
◯◯「全部真っ白……」
見渡す限り広がる雪の絨毯に、私の胸が弾み出す。
◯◯「足跡をつけるのがもったいないぐらいですね」
カルト「あれ……」
カルトさんが雪原の先を指差した。
その方向に目を凝らすと、雪の中から長い耳が見えた。
◯◯「雪ウサギ…… !」
白い雪を掻き上げて、雪ウサギが私達の方へ飛び跳ねてくる。
◯◯「あの子もカルトさんの魔法ですか?」
カルト「違う……」
◯◯「違う?」
しゃがむと、カルトさんは駆けて来る雪ウサギに手を差し出した。
カルト「触って……」
彼にならい、私もウサギに手を伸ばす。
手にふわりとした柔らかい毛の感触が伝わった。
◯◯「本物……?」
カルト「ここに、いるのは……本物。 雪ウサギは……この国だけ……。 希少価値が高いから……あまり知らされない……」
◯◯「そんなに大切なのに、教えてくれたんですか?」
カルト「気に入ってる……みたいだから」
(言葉が少なくても、カルトさんの優しさが伝わってくる)
◯◯「ありがとうございます」
お礼を言って、彼の瞳をじっと見つめると……
カルト「ぼくの、方こそ……」
カルトさんは、気恥ずかしそうに私から視線を逸らした。
◯◯「どうしてですか?」
カルト「ぼくの魔法を……怖がらない……」
◯◯「カルトさん……」
その時、静かな雪原に銃声が鳴り響いた。
立ち上がると、カルトさんが雪原の向こうへ目を細める。
奥の木々の間から、ウサギ達がこちらへ逃げる様に走ってきた。
◯◯「なっ…何……?」
ウサギを追って、銃を構えた男の人が現れる。
カルト「密猟者……」
私達に気づいていないのか、密猟者はウサギ達に銃の照準を合わせる。
カルト「させない」
カルトさんが、呪文のようなものを静かにつぶやくと……
たちまちに雪の壁が作り出されて、銃弾を防いだ。
密猟者「なんだ……! ?」
邪魔をされた密猟者はとっさにこちらに銃身を向けた。
◯◯「っ……!」
ためらいもなく発射された銃弾をカルトさんが魔法で撃ち落としていく。
カルト「っ…… !」
カルトさんの額に汗が浮かんでいる。
(そういえばカルトさん……力の制御ができないって言ってた……)
ギュッと手を握りしめた。
けれどその時…一。
◯◯「っ…… !」
腕に痛みが走り、押されるように私は倒れ込んだ。
焼けつくような熱さと痛みが広がっていく。
(弾が……かすって……)
雪原が、わずかに赤く染まる。
カルト「◯◯…… !」
カルトさんが私の傷に目を見開く。
カルト「許せ…ない……!」
ぞわりとした悪寒を感じたかと思うと……
カルトさんの周りを、雪の風が包み込んだ。
◯◯「カルト……さん……」
彼の髪が風に舞い広がり、氷のように輝く。
そして、密猟者に向けて勢いよく腕を突き出した。
密猟者「うわっ!」
腕に従うように、吹雪が大蛇のようにねじれ密猟者に襲いかかる。
密猟者「うわぁあああ!」
たちまちに、雪の大蛇は密猟者を飲み込んでしまった。
けれどそれだけで、雪は収まることは無く……
◯◯「カルトさん…… !」
まるで力に飲まれたように、吹雪がカルトさんの周りを包み込む。
カルト「うああっ…… !」
(力が……暴走している?)
竜巻のように膨れ上がったその時…ー。
◯◯「地震が…… !」
雪原の足元が、大きく揺れた。
そして……
◯◯「っ…… !」
気づいた時には、大きな雪の壁が私を飲み込もうとしていた…ー。