城に戻り、昼食を終えると、私は一人城内を探索し始めた。
(本当に綺麗なお城)
窓辺に並んだ氷柱が、午後の光を弾いて輝いている。
その光が、室内に七色の虹を届けた。
(そういえば……)
昨日、雪の上で動いていた雪ウサギのことを思い出した。
(見に行ってみよう)
駆け出しそうな気持ちを抑えて、私は庭へと向かった。
庭に出ると、冷たい空気に息が白く染まっていく。
(どこだろう?)
真っ白な雪が太陽の光にきらきらと輝いている。
すると、何かが雪を押し上げて顔を覗かせた。
(いた!)
ウサギは、小さな赤い瞳でこちらを見ると、長い耳をぴんと立てる。
◯◯「やっぱりウサギだ……」
ウサギが、雪の上を飛び跳ねた。
◯◯「かわいい」
逃げないように、そっと手を伸ばす。
けれどウサギは、雪に解けいるように消えてしまった。
◯◯「えっ、消えた……?」
驚いて辺りを見渡すと、冷たい風が肌を撫でた。
◯◯「……?」
風の中で、光の粒がきらきらと輝く。
(光の風……?)
その光が雪に降り注ぐと、ウサギが何羽も雪の下から現れた。
◯◯「こんなにたくさん隠れていたの?」
ウサギ達は辺りを見渡すと、光の風が来た方へ飛び跳ねていく。
(どこに行くんだろう?)
胸を高鳴らせて、私はウサギ達を追いかけた。
するとそこに……
(カルトさん……?)
ウサギ達に囲まれたカルトさんを見つけた。
彼が手を軽やかに振り上げると、光の風が雪の上に舞い降りる。
(ウサギが……!)
すると、また何羽もウサギ達が雪の下から現れる。
(違う……雪がウサギに変わったんだ)
(これって、カルトさんの魔法?)
(そういえば……)
執事「カルト様は、強い魔力をお持ちだとは思えないほど、普段は静かな方ですから」
(この国に来た時、執事さんがそんな事を言ってた……)
カルトさんがふわりと手を振ると、ウサギ達が踊り出した。
そんなウサギ達を、彼が優しい眼差しで見下ろしている。
◯◯「綺麗……」
日の光に輝くカルトさんの姿に、私は思わず声を漏らした。
カルト「誰?」
カルトさんが振り向いたその瞬間…ー。
彼の手から、光の風が矢のように放たれる。
その矢が、音を立てて私が隠れている木の幹に当たった。
◯◯「っ…… !」
カルト「……」
恐る恐る木の幹を見ると、木肌がえぐられ凍っている。
(今の……当たってたら)
背筋に冷たい物が走る。
カルト「出てきなよ……。 ……尻尾が見えてる」
(尻尾?)
私は慌ててスカートの裾を隠した。
カルト「出たくないなら……いい」
カルトさんの冷たい声に、私はギュッと目をつむった。
すると……
雪を踏む音が、だんだんと近づいてくる。
カルト「そこだと……雪が落ちてくる……」
すぐ傍から声が聞こえて、私の腕が力強く引かれる。
◯◯「っ……!」
恐る恐る目を開けると、彼が私の腕を掴み見下ろしていた。
その時、どさりと音を立てて、私の傍に何かが落ちてきた。
◯◯「え……?」
さっきまで私が立っていた場所に、雪の塊が降り積もっている。
◯◯「あ……」
カルト「さっき……つい……驚いたから……」
傷ついた木の幹を、カルトさんが労わるように撫でる。
カルト「力を……上手く使いこなせない」
◯◯「そうなんですか……」
カルト「……何か用?」
◯◯「あ…ごめんなさい……。 ウサギがかわいくてつい……」
カルト「ウサギ…… ?」
◯◯「かわいいですね。カルトさんの魔法ですか?」
カルト「そう……」
◯◯「素敵な魔法……とっても綺麗で見とれちゃいました」
カルト「……」
カルトさんが澄んだ瞳でじっと私を見つめる。
カルト「……不思議な人」
◯◯「え……?」
カルト「ぼくのこと……ぼくの力……怖がらない」
(カルトさん?)
首を傾げながら、彼の顔を覗き込むと……
カルト「いいところが……ある……。 気に入ると……思う」
微かに、カルトさんの瞳が嬉しそうに揺れた気がした。
カルト「明日……」
◯◯「楽しみです」
カルト「……うん」
(明日か……)
私から瞳を離して、カルトさんが光の風を雪に滑らせた。
降り注ぐ光の中、ウサギ達が楽しそうに踊り出した…ー。