第3話 雪ウサギ

城に戻り、昼食を終えると、私は一人城内を探索し始めた。

(本当に綺麗なお城)

窓辺に並んだ氷柱が、午後の光を弾いて輝いている。

その光が、室内に七色の虹を届けた。

(そういえば……)

昨日、雪の上で動いていた雪ウサギのことを思い出した。

(見に行ってみよう)

駆け出しそうな気持ちを抑えて、私は庭へと向かった。

庭に出ると、冷たい空気に息が白く染まっていく。

(どこだろう?)

真っ白な雪が太陽の光にきらきらと輝いている。

すると、何かが雪を押し上げて顔を覗かせた。

(いた!)

ウサギは、小さな赤い瞳でこちらを見ると、長い耳をぴんと立てる。

◯◯「やっぱりウサギだ……」

ウサギが、雪の上を飛び跳ねた。

◯◯「かわいい」

逃げないように、そっと手を伸ばす。

けれどウサギは、雪に解けいるように消えてしまった。

◯◯「えっ、消えた……?」

驚いて辺りを見渡すと、冷たい風が肌を撫でた。

◯◯「……?」

風の中で、光の粒がきらきらと輝く。

(光の風……?)

その光が雪に降り注ぐと、ウサギが何羽も雪の下から現れた。

◯◯「こんなにたくさん隠れていたの?」

ウサギ達は辺りを見渡すと、光の風が来た方へ飛び跳ねていく。

(どこに行くんだろう?)

胸を高鳴らせて、私はウサギ達を追いかけた。

するとそこに……

(カルトさん……?)

ウサギ達に囲まれたカルトさんを見つけた。

彼が手を軽やかに振り上げると、光の風が雪の上に舞い降りる。

(ウサギが……!)

すると、また何羽もウサギ達が雪の下から現れる。

(違う……雪がウサギに変わったんだ)

(これって、カルトさんの魔法?)

(そういえば……)

執事「カルト様は、強い魔力をお持ちだとは思えないほど、普段は静かな方ですから」

(この国に来た時、執事さんがそんな事を言ってた……)

カルトさんがふわりと手を振ると、ウサギ達が踊り出した。

そんなウサギ達を、彼が優しい眼差しで見下ろしている。

◯◯「綺麗……」

日の光に輝くカルトさんの姿に、私は思わず声を漏らした。

カルト「誰?」

カルトさんが振り向いたその瞬間…ー。

彼の手から、光の風が矢のように放たれる。

その矢が、音を立てて私が隠れている木の幹に当たった。

◯◯「っ…… !」

カルト「……」

恐る恐る木の幹を見ると、木肌がえぐられ凍っている。

(今の……当たってたら)

背筋に冷たい物が走る。

カルト「出てきなよ……。 ……尻尾が見えてる」

(尻尾?)

私は慌ててスカートの裾を隠した。

カルト「出たくないなら……いい」

カルトさんの冷たい声に、私はギュッと目をつむった。

すると……

雪を踏む音が、だんだんと近づいてくる。

カルト「そこだと……雪が落ちてくる……」

すぐ傍から声が聞こえて、私の腕が力強く引かれる。

◯◯「っ……!」

恐る恐る目を開けると、彼が私の腕を掴み見下ろしていた。

その時、どさりと音を立てて、私の傍に何かが落ちてきた。

◯◯「え……?」

さっきまで私が立っていた場所に、雪の塊が降り積もっている。

◯◯「あ……」

カルト「さっき……つい……驚いたから……」

傷ついた木の幹を、カルトさんが労わるように撫でる。

カルト「力を……上手く使いこなせない」

◯◯「そうなんですか……」

カルト「……何か用?」

◯◯「あ…ごめんなさい……。 ウサギがかわいくてつい……」

カルト「ウサギ…… ?」

◯◯「かわいいですね。カルトさんの魔法ですか?」

カルト「そう……」

◯◯「素敵な魔法……とっても綺麗で見とれちゃいました」

カルト「……」

カルトさんが澄んだ瞳でじっと私を見つめる。

カルト「……不思議な人」

◯◯「え……?」

カルト「ぼくのこと……ぼくの力……怖がらない」

(カルトさん?)

首を傾げながら、彼の顔を覗き込むと……

カルト「いいところが……ある……。 気に入ると……思う」

微かに、カルトさんの瞳が嬉しそうに揺れた気がした。

カルト「明日……」

◯◯「楽しみです」

カルト「……うん」

(明日か……)

私から瞳を離して、カルトさんが光の風を雪に滑らせた。

降り注ぐ光の中、ウサギ達が楽しそうに踊り出した…ー。

 

 

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