雲間から朝の透明な光が降り注いでいる…ー。
カルトさんに連れられ、私は城下町までやって来た。
カルト「寒い……?」
◯◯「大丈夫です」
カルト「無理、しないで……」
気遣ってくれる彼の優しさに、思わず頬が緩む。
◯◯「大丈夫です。たくさん着込んで来たので、今だと暑いぐらい」
カルト「そう……。 何かあったら、言って……」
◯◯「ありがとうございます」
カルトさんと一緒にお店を見て歩く。
カルト「……」
口数少ないカルトさんは、私が行くところに何も言わずについて来てくれる。
けれど……
(カルトさん……無理して付き合ってくれてるんじゃないのかな)
(早くお暇した方がいいんじゃ……)
無表情な彼を見ていると、胸に微かな不安が湧いてくる。
◯◯「あの……もう戻りますか?」
カルト「どうして……?」
◯◯「いえ……」
カルト「……」
上手く言えない私を、カルトさんが見つめている。
ふとその時、目の前にひとひらの白い雪が舞いおりた。
◯◯「雪……」
見上げると、雲間から昨日の雪とは違う、大きく柔らかそうな雪が次々に舞い降りてきた。
◯◯「わっ…… !」
私は空を仰ぎ、両腕を広げる。
◯◯「すごい……雪の結晶がはっきり見える」
カルト「純度が高い……氷の国だから……」
◯◯「そうなんですか。 私のいたところでは、すぐに溶けてしまうし結晶の形まではよく見られないんです」
雪の結晶が、手のひらの上で、ゆっくりと溶けて消えていく。
カルト「……」
ふと、カルトさんが空を仰ぎ見た。
◯◯「カルトさん?」
彼は静かに手を空に差し出す。
その手のひらに雪が舞い降ちた。
カルト「……」
何も言わずに彼は私に手を差し出した。
◯◯「え……?」
カルト「……ぼくの手の方が、よく見える……冷たいから」
◯◯「ありがとうございます……」
カルトさんの手のひらで、雪の結晶が小さな輝きを放つ。
◯◯「いろんな形があるんですね」
カルト「うん……」
(カルトさんは、優しい人だ)
(さっきはお話できなくて、ご迷惑をかけていると思っていたけれど……)
結晶から目を離して、そっと彼を盗み見た。
透明さをたたえる瞳が、静かに結晶を見据えている。
(綺麗……)
胸がトクンと音を立てる。
その時、教会の鐘が街に鳴り響いた。
カルト「昼……」
不意に彼が視線を上げた。
◯◯「あ……」
彼と目が合い、私の頬が一気に熱くなる。
カルト「城に……帰ろう」
カルトさんは手をふわりと空に舞わせた。
彼の手のひらにのっていた雪が、静かに空から降る雪にまぎれていった…ー。