楓さんの姿が、廊下の向こうへと消えていった後…―。
○○「楓さん……」
―――――
楓『明日までには咲かないだろう。残念だったね』
―――――
先ほどの楓さんの言葉が、頭の中で冷たく響く。
??「○○様、どうかなさいましたか?」
振り返ると、楓さんの従者の方が心配そうに私を見つめていた。
○○「あ、いえ……なんでもありません。 桜がまだ咲いていないので、少し残念だなって思って……」
従者「どうやら開花が遅れているようで、今しばらく時間がかかるようです。 せっかくお越しいただいたというのに、大変申し訳ありません……」
○○「いえ、そんな。仕方のないことですから」
私が笑顔でそう言うと、従者の方は少し安心したような表情を浮かべる。
けれど、すぐに申し訳なさそうに眉を下げ……
従者「……実は先日、楓様にも同じことを聞かれました」
○○「え?」
従者「桜はいつ開花予定なのかと。 まだかかると伝えたところ、楓様も同じようにがっかりされていました」
○○「楓さんが……?」
従者「ええ。では、失礼します」
○○「はい……」
私は茫然としながら、従者の方が歩いていく姿を見送る。
…
……
そうして、しばらく……
街を行き交う人々の肩越しに、私は楓さんの姿を探す。
(楓さん、どこに行ったんだろう?)
そわそわと視線を泳がせていると、日差しに輝く黄朽葉色の髪が目に入った。
○○「楓さん」
楓「○○……こんなところ何してるの?」
○○「山の桜はそろそろ開花しているかな、と思って。 先日行った時に、すでに蕾がついていしましたから。 もしよかったら一緒にもう一度……」
楓「ああ……まだ咲いていなかったよ」
○○「え……」
楓「それより、君に見せたいものがある」
楓さんは短くそう言って、城の方へと向かう。
(もしかして、桜を見に行ってくれた……?)
私は慌てて、楓さんの後を追った…―。