廊下から見える中庭には、春の訪れを知らせる鳥が優雅に飛び回っている。
穏やかなそよ風が、私の頬を撫でていった。
(綺麗な風景……)
けれど、桜の花はまだ咲く気配がない。
(いつになったら咲くんだろう)
桜の木を見つめていた時、楓さんが通りかかった。
楓「こんなところでぼんやりしてると邪魔だよ」
○○「……すみません」
楓「何を見てたの?」
楓さんが私の横に並び、中庭を見渡す。
○○「桜の木です」
楓「……」
○○「でも、まだ咲きそうにありませんね。 明日、帰らなければいけないのに……」
明日のことを思うと、きゅっと胸が締めつけられる。
けれど……
楓「なんだ、そんなことか」
○○「え……」
楓「明日までに咲かないだろう。残念だったね」
楓さんは意地悪そうな笑みを浮かべてそう言うと、踵を返して歩き出した。
○○「……」
楓さんの背中が小さくなっていく。
(どうして、楓さん……)
楓さんの背中に何も言えないまま、私はしばらく立ち尽くしていた…―。