第2話 楓の思い

街には、黒漆喰塗りの美しい建物が軒を連ねている。

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楓『春の宴に、桜の屛風絵を是非出展してくれって頼まれて』

○○『桜の屛風絵なんて、素敵ですね。 あれ? でも、出展しないって言っていたような……』

楓『そう。だから、君が来てくれて助かったよ』

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○○「どうして断ってしまったんですか?」

私の問いかけに、楓さんは小さく首を振った。

楓「春の宴は桜花が中心だからね。俺が出しゃばる必要はないよ」

(桜花さんって……春を司る王子様だったよね)

楓「それに、桜花の舞と桜の花……それの調和の中に俺の絵なんかあっても邪魔なだけだ」

○○「邪魔なんて……楓さんの絵を楽しみにしている人も多いと思います」

私の言葉に、楓さんの表情が陰る。

楓「これから本物の桜が咲くっていうのに、桜の絵を描くなんて無粋な真似はしたくないよ」

○○「え……」

楓「俺が設計から手がけたこの街を桜が彩る……。 それでこそ春にしか拝めない芸術品が完成するというのに。 まったく、わかってない」

楓さんは大きなため息を一つ吐いた。

(そんな思いがあるんだ……)

○○「ごめんなさい、何もわからないのにいろいろ言ってしまって」

楓「いや……」

そう言って、楓さんは街並みへと視線を移す。

○○「楽しみです。 街全体が芸術品になるなんて。きっと、とても美しいんでしょうね……」

うっとりと街並みを見渡すと、楓さんは私の顔を真顔で覗き込んだ。

楓「いつもぼんやりしているのに、そういう感性はあるんだね」

○○「……」

楓さんはくすりと笑い、木々を仰ぐ。

通り過ぎる風が、楓さんの黄朽葉色の髪を揺らした。

楓「目で鼻で体で、桜の息吹を感じてこそ。 本物の桜を前にして、絵画の桜がその美しさに敵いっこない」

楓さんは、まだ開花していない桜の木を愛しむように、目を細める。

私は彼の美しさに、息を吐くのも忘れ見とれてしまった。

(やっぱり、綺麗な人……)

楓さんに倣い、私も木々を見上げる。

(桜が咲くのは楽しみだけど、楓さんの桜も見てみたかったな)

(少し残念……)

私達は桜の開花を待ちわびるように、青空に伸びる枝を見上げ続けていた…―。

 

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