アルマリ「でもこれはただのホテルのプラン。僕からのおもてなしはその後だよ。 楽しみに待っていてね?」
その言葉が忘れられないまま、私はアルマリが用意してくれたエステサロンで時間を過ごしていた…―。
美容スタッフさんに全身を磨かれ、すっかりリラックスした頃だった。
アルマリ「○○、準備はいい?」
○○「え……アルマリ?」
再び姿を現した後に、私は施術ベッドから飛び起きた。
(すっかり寛いでしまっていた……恥ずかしい)
アルマリ「次が僕からのおもてなし。だからまだ寝ちゃわないでね?」
○○「うん……」
目をこする私の顔を見て、アルマリは柔らかに目尻を下げた。
○○「ええと、ここは……」
アルマリに連れられて次にやって来たのは、ネイルサロンのようなところだった。
けれど、スタッフさんの姿が見当たらない。
すると…―。
アルマリ「ここに腰かけて。手を僕の方に出して?」
○○「え!?」
私を長椅子に座らせ、目の前にアルマリが腰を下ろす。
○○「ちょっと待って。もしかしてアルマリがやるの……!?」
アルマリ「うん、いつもトルマリがやるのを手伝ってたから……できると思う」
彼は私の足元で色とりどりの小瓶の中から青い小瓶の蓋を開け始めた。
つんと鼻を刺す臭いがしたかと思うと、彼の手が私の指を拾った。
アルマリ「くすぐったかったら言ってね?」
○○「う……うん」
ゆっくりと静かに、彼の指先が私の爪先にネイルを施す。
(すごい、アルマリってこんなに器用なんだ)
ベースコートの上に薄い水色のネイルを重ねて、その上に空を映したような淡い青色のストーンを乗せていく。
まるで魔法のように飾られていく指先に、少しだけくすぐったさを覚えた。
アルマリ「……できた」
○○「……!」
最後の仕上げは、彼から落とされる口づけだった。
アルマリの瞳と同じ色で飾られた指先に彼の唇が柔らかに押しつけられる。
○○「ア、アルマリ……!」
視線の先にいる彼は少しだけ恥ずかしそうに笑って、爪先から私に視線を移す。
アルマリ「うん、やっぱり似合う。 君の指は、本当に綺麗だから……」
穏やかな声色でそう告げ、もう一度彼はキスを落とす。
○○「恥ずかしい……」
アルマリ「そう? でもかわいいよ、今の○○……」
嬉しそうに笑って、私の爪先を見やる。
アルマリ「僕、レストランで女の人にプレゼントをあげている男の人を見て、ウェイターの話を聞いて……。 僕も君に何か特別なことをできたらって思ったんだ。 それで君の綺麗な手を僕と同じ色で飾ってあげたくて。君に似合うストーンを探したの」
よく見れば私の指先を飾った石は、先日二人で一緒に街で見たものと同じ色をした石だ。
(一生懸命、考えてくれたんだ)
彼の心遣いが嬉しくて、胸が熱くなる。
アルマリ「……びっくりした?」
○○「うん、少しだけ。でもすごく嬉しい」
アルマリ「よかった……君は僕にとって特別な女の人だから」
○○「……」
お互いに赤くなった顔で、瞳を見つめ合う。
(これがアルマリが私のために用意してくれた特別なおもてなし……)
綺麗な青色で飾られた指先を見て、また嬉しさが胸に込み上げてくる。
アルマリ「何をしようかなってずっと迷ったんだけど……これにしてよかった。 いつもと違う過ごし方を大事にするなら、ちょっと変わってることの方がいいでしょ? 男の人が女の人にネイルってあんまりないから……」
○○「うん、すごく特別に感じる。 それにアルマリが私のために考えてくれたことが嬉しい。ありがとう……」
胸に溢れる感謝を伝えれば、アルマリの頬がさらに赤く染まっていく。
そして再び落とされる優しいキス……
彼のくれた特別なおもてなしは、私の身も心も、幸せで満たしてくれたのだった…―。
おわり。