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アルマリ『あのね、明日の夜、一緒に食事に行かない? 僕に……君をもてなさせてほしいんだ』
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その翌日…―。
夜が訪れると、私を迎えにアルマリが部屋へやって来た。
アルマリ『○○、行こう?』
○○「うん」
(なんだかドキドキする……)
すっと、アルマリの手が差し出される。
(どうしてだろう……)
もう何度も繋いだその手が、今日はいっそう綺麗に見えた…―。
ウェイター「ご予約のお客様ですね、どうぞこちらになります」
彼のエスコートで連れられてきた先は、先日一緒に食事を取ったレストランだった。
けれど今夜案内されたのは、美しい夜景の見えるバルコニー席だった。
○○「綺麗……」
席に着いた私達はしばらく、見とれるように空に輝く星に夢中になっていた。
○○「まるで空が落ちてきそう……」
アルマリ「そうだね……でもあの空よりもっと綺麗な星を君に見せてあげる」
○○「え……?」
アルマリが得意げに微笑んだ瞬間……
○○「!?」
レストランの照明が落とされて、私達を照らす光は頭上の満天の星だけとなった。
○○「なんて綺麗……」
まるで宇宙に投げ出されたような浮遊感を感じる。
目の前に広がるのは幾千幾万もの星々の輝きだけ……
○○「すごい……すごいね、アルマリ!」
ついはしゃいでしまうと、アルマリはそんな私を見て口元を緩ませた。
アルマリ「……気に入ってくれた?」
○○「うん、とっても!」
アルマリ「ならよかった」
ふっと視線を移し、アルマリが手を掲げる。
するとレストランの奥から銀のトレーを持ったウェイターさんが姿を現した。
アルマリ「ありがとう」
アルマリはそのトレーの上に置かれた何かを受け取ると、私に振り向く。
アルマリ「もう一つ、君にプレゼントがあるんだ。 これ、開けてみて?」
○○「何?」
彼から手渡されたブルーベルベットの箱を開ける。
○○「……これって」
そこにあったのはアクアマリンの宝石が散りばめられたガラスの靴だった。
その水色の輝きが夜空の星々を反射して幻想的に煌めく。
○○「綺麗……本当の星空でできてるみたい……」
(もしかして昨日アルマリがガラス工芸店にいたのは……)
アルマリ「ふふ……綺麗でしょ? 君のために、探してきたんだ」
○○「アルマリ……」
(まさか私のためにあんな真剣な顔をして探してくれてたなんて……)
アルマリは安堵したように小さく息を吐いて、言葉を紡ぎ始めた。
アルマリ「どんなことをしようってずっと悩んだんだけど……。 ちゃんと王子として○○……お姫様をおもてなししたいなって思って……。 君のために見つけてきたんだ。ちょっと恥ずかしいけれど……」
少し赤くなった顔を席から立つと、アルマリは私の足元に跪いた。
アルマリ「貸して? 君に履かせてあげる」
○○「うん……」
心臓がとくんと音を立てる。
私が箱から取り出した靴を彼に差し出すと、アルマリは恭しくそのガラスの靴を私の足元へ宛がった。
柔らかな手が、私のかかとを優しく包む。
アルマリ「君って、指先だけじゃなくて足も綺麗なんだね……。 ほら、とても似合ってる……○○姫様」
○○「あ……」
彼の唇が、ガラスの靴を履いた足の甲に口づけられる。
それは王子様がお姫様にする、夢のような優しいキスで……
○○「アルマリ……」
そっと視線を落とすと、アルマリの瞳が私を見て嬉しそうに細められる。
アルマリ「お気に召しましたか? 姫……」
そのいつもとは違う少し大人っぽい表情に、また胸がときめき始める。
そして足元を飾るのは、まるで天の川を踏みしめているような、夜空を移すガラスの靴……
○○「本当にありがとう、アルマリ……」
アルマリ「どういたしまして。このまま少し星空の下を歩いてみる?」
ガラスを飾るアクアマリンが、星の光に煌めく。
王子様のくれた、星空の下での特別なおもてなし……
ときめきと嬉しさで溢れる胸を押さえながらガラスの靴を鳴らすと、この上なく幸せな音色が、夜空に響いたのだった…―。
おわり。