○○に手をかけた憎き賊を追放した後…―。
○○「私……あの時、引き止めたのはやはり、間違っていたのでしょうか?」
煌牙「先ほどの賊の話か?」
○○「はい……煌牙さんがあまりに落ち込んでいるから……。 だけど、煌牙さんの手を汚すようなことは……。 どうしてもして欲しくない、と思ってしまったんです。私の身勝手な考えで……ごめんなさい」
(……まったく、おぬしは)
(そのようなことで胸を痛める必要などないというのに)
わしは神妙な顔をする○○を安心させるように笑顔を見せる。
煌牙「それほどに己の考えを強く持てるとは、素晴らしきかな。 わしは好きじゃ。おぬしのそういうところが。 強い心根を持つおぬしを、心底気に入っておる」
(……不思議なものじゃのう。初めは、ただただ純粋に可愛らしいおなごじゃと思っておったのに)
(優しく強い心を持ったおぬしに、いつの間にか惹かれておった)
煌牙「よって……おぬしにだけは、わしを可愛いと言い、可愛がることを許してやろう。 わしを、存分に可愛がると良い」
(まあ……当然、それ相応の見返りはもらうつもりじゃがのう)
心の内に悪戯心を秘めながら、わしは○○を見つめた。
○○「私……だけに、ですか?」
煌牙「その通りじゃ。ほれ、来い。先ほどのように撫でてみよ」
○○は、わずかにためらうような素振りをみせながらわしの頭に手を伸ばす。
その瞬間…―。
(ふふ……かかりおったな)
わしは○○の手を掴んだ後、強引に引き寄せた。
煌牙「その代わり、じゃ。おぬしがわしを可愛いと言うたびに、接吻をしてやろうではないか」
○○「っ……!?」
息を呑む○○の唇をぺろりと舐め上げる。
わずかに顔を離すと、目の前には頬を赤らめる彼女の姿があった。
(本当に初いやつよ……)
(困ったのう、今宵は接吻だけで済ませるつもりであったが)
(おぬしのせいで気が変わってしまったわ)
わしはお互いの唇が触れるか触れないか程度の距離まで顔を近づける。
煌牙「良いか? これからおぬしに存分に、わしが大人の男だということを思い知らせてやるからの」
限りなく甘く囁いた後、再び○○の柔らかな唇をちろりと舐めた。
(甘いのう……)
(こんなにも甘美な感覚は、いつぶりじゃろうな)
○○「っ……! あ、あのっ、私……っ」
煌牙「嫌ではないだろう? おぬしも……いい表情をしておる。 本当に……そそられるわ……」
耳たぶを緩く食んだ後、熱を帯びた耳元にそっと囁く。
すると○○は、先ほどよりもさらに蕩けるような表情を浮かべ……
煌牙「……っ」
背中に甘い痺れが走り、体が熱くなってゆく。
(よもや、そのような表情を隠しておったとはのう)
(ねやごとに関しては初いだけのおなごかと思っておったが……)
○○「煌牙、さん……?」
○○が切なげな声色で名前を呼んでくる。
その瞳は今までにないほど熱く濡れそぼっていて、わしは吸い寄せられるようにまぶたへと唇を落とした。
○○「……っ」
唇でまぶたを薄くなぞる度に、○○の体が震える。
そのまま、額や頬を軽くついばむと…―。
○○「煌牙さん。私、これ以上は……」
煌牙「ふふ……聞こえぬのう」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ○○に嗜虐心を刺激されたわしは、たっぷりと時間をかけて柔らかな首筋や鎖骨へと唇を滑らせる。
そうして、しばらくの後…―。
煌牙「時に、○○よ。おぬしはわしのことをどう思うておるのじゃ?」
○○「え……?」
煌牙「わしは先ほど、おぬしを好きだと告げた。 じゃが、おぬしの答えを聞いておらぬと思うてのう」
○○の柔らか手に首を押しつけながら視線を向けると、彼女は恥じらうように、わしから顔を逸らしてしまう。
その様子を楽しみながら唇を這わせていると……
○○「……好き、です。 長としてこの国を守ってきた、強くて大人な煌牙さんも。 誰よりも可愛い煌牙さんも、本当に……」
煌牙「……!」
○○の言葉に、予期せず鼓動が跳ねた。
(よもや、このように心を揺さぶられるとは……)
(少しばかり意地悪をするだけのつもりだったというのに……してやられたのう)
熱を帯びてきた頬を誤魔化すように、○○から視線を逸らす。
すると心の内を見抜いたのか、彼女はわしの頭を撫で……
○○「やっぱり煌牙さん、可愛いです」
煌牙「!! おぬしというやつは……」
頭を撫でる○○の手を取り、その場に組み敷く。
○○「……! あの……」
煌牙「言ったはずじゃ。可愛いと口にするたびに接吻をしてやると。 じゃが……おぬしは二度も言いおった。ただの接吻だけで済ませるわけにはいかぬのう」
○○「えっ? 煌牙さ…-」
何か言いたげな○○の唇を強引に塞ぐ。
すると、最初こそためらうような素振りを見せていた彼女が、少しずつ応え始め…―。
(本当に素直で教え甲斐のあるおなごじゃ)
(じゃが、まだまだ宵の口。果たして朝まで耐えられるかのう……?)
部屋には二人分の吐息と、降り続ける雨の音だけが響いている。
その音を耳にしながら、わしは○○への口づけを深くしていったのだった…―。
おわり。