私を攫おうとした賊が、無事捕らえられた後……
部屋を片づけるうちに、煌牙さんの部屋へと誘われた。
…
……
煌牙「少し……落ち着いて話がしたかったものでの……。 あのように恐ろしい思いをさせた後ですまぬな」
◯◯「いいえ、煌牙さんがすぐに来てくれましたから、平気でした」
煌牙「そうか」
ゆるりと微笑むその表情に、いつものような明るさがない。
ひどく落ち込んでいる様子に、私の胸も同じく痛みを感じた。
煌牙「しかし、今少し素早く気配を察知し、駆けつけておれば。 あのような思いをせずともよかったかもしれぬ……」
かける言葉を探していると、いつかのように……
煌牙さんの耳がしょんぼりと垂れ下がってきた。
煌牙「それに、◯◯に手をかけた憎き賊を、成敗できなかったのは……。 やはりどうにも悔やまれて仕方がないのじゃ」
哀しげな声音に、さらに胸が締めつけられて……
煌牙「っ……」
無意識のうちに、その頭に手を伸ばし、撫でてしまっていた。
悔しげな様子の瞳が上目に上げられたことで、はっと我に返るように撫でる手を止める。
◯◯「っ……ごめんなさい。私、また……」
煌牙「いや、構わぬ。それがおぬしの……慰め方なのであろう?」
姿は幼いけれど、やはり煌牙さんは私の何倍も大人だ。
私を許容し包み込むような笑みは、決して子どものものではない。
◯◯「私……あの時、引き止めたのはやはり、間違っていたのでしょうか?」
煌牙「先ほどの賊の話か?」
◯◯「はい……煌牙さんがあまりに落ち込んでいるから……」
煌牙「う……それは……そうじゃな」
◯◯「だけど、煌牙さんの手を汚すようなことは……。 どうしてもして欲しくない、も思ってしまったんです。私の身勝手な考えで……ごめんなさい」
煌牙さんは、何とも言えない顔で私をじっと見つめていたかと思えば……
愛らしい顔をくしゃりと歪めて、満面の笑みになった。
煌牙「それほどに己の考えを強く持てるとは、素晴らしきかな。 わしは好きじゃ。おぬしのそういうところが」
◯◯「っ……!」
煌牙「強い心根を持つおぬしを、心底気に入っておる」
蘇った強い光を放つ瞳が、しっかりと輝きながら私を見つめている。
(好きって……煌牙さんが私を、好き……?)
どこまでも速まってしまいそうな鼓動のせいで、破裂しそうに胸が苦しい。
煌牙「よって……おぬしにだけは、わしを可愛いと言い、可愛がることを許してやろう。 わしを、存分に可愛がるが良い」
◯◯「私……だけに、ですか?」
煌牙「その通りじゃ。ほれ、来い。先ほどのように撫でてみよ」
今はぴんと伸びた耳を見つめながら、頭におずおずと手を伸ばした。
その瞬間…ー。
◯◯「っ……!」
きつく手を掴まれたかと思えば、そのまま強引に引き寄せられた。
あっという間にぐんと近づいた距離に、これまでで一番、心臓が大きく音を立てた。
煌牙「その代わり、じゃ。おぬしがわしを可愛いと言うたびに、接吻をしてやろうではないか」
いたずらめいた瞳でそう告げ終わる時には……
◯◯「っ……!?」
一気に私達の距離はなくなり、唇が微かに触れ合った。
それと同時に、ぺろりと唇を舐め上げられる
(い、今、キスを……)
何を考える間もなく行われた口づけに、ただただ鼓動が強くなり、
顔は一気に火照りを感じた。
煌牙「良いか?これからおぬしに存分に、わしが大人の男だということを思い知らせてやるからの」
唇が、触れるか触れないかの距離で、甘い囁きを告げられる。
(煌牙さん……本当に大人の男性みたいに魅力的で……)
美しく済んだ瞳の中へ引き込まれてしまいそうになる。
また……いたずらに唇を微かに舐められれば……
◯◯「っ……!あ、あのっ、私……っ」
煌牙「嫌ではないだろう?おぬしも……いい表情をしておる」
焦る私に、煌牙さんは余裕たっぷりに妖艶な笑みを浮かべ、
私の耳たぶ緩く食んだ。
煌牙「本当に……そそられるわ……」
そのまま耳に注がれた囁きは、どこまでも私の体を痺れさせてしまいそうで……
煌牙さんの魅力からはどうしようとも、逃れられそうにないのだった…ー。
おわり。