ここ最近の日課となっていた、煌牙さんとの部屋遊びの最中……
慌ただしい足音と共に従者の方々が数名駆け込んできた。
煌牙「何用じゃ。慌ただしいのう」
嫌がりつつも、その尋常ではない雰囲気に煌牙さんの表情が険しくなっていく。
従者1「も、申し訳ございません……」
煌牙「良いから、早う用件を申してみよ」
従者1「はっ……実は、地下牢に閉じ込めておいた例の賊共ですが……」
従者1「本日見回りの際に、姿を消しておりました!見張りの者も気づかずに……申し訳ございません!」
煌牙「……」
煌牙さんが、衝撃に目を丸くし、きゅっと眉根を寄せた。
(逃げたなんて……一体どうやって……)
従者2「煌牙様。申し訳ございません。いかがすれば……」
煌牙「……考えておく。もう下がって良い」
従者1・2「はっ……」
立ち去る従者の方々を目で確認して、煌牙さんが深くため息を吐いた。
煌牙「わしは浮かれていたのであろうな……」
◯◯「え……?」
落ち込んでいるのか、しゅんと耳を垂らし悲しげに長いまつ毛を揺らしている。
(煌牙さん……?)
煌牙「おぬしと過ごす時間がとても楽しかったのじゃ。 そのせいで油断をし……普段ならこのような異変、気づけたはずであるのに……」
◯◯「煌牙さん……」
煌牙「あいつらは、我が国の薬……伊薬を悪用しようとする輩じゃ。 何たる失態……」
煌牙さんの悔しげな声音が、また私の胸を締めつけて……
煌牙「っ……!」
気づけばそっと、煌牙さんの頭を優しく撫でていた。
驚いたように目を丸くして、煌牙さんが顔を上げる。
◯◯「あ……ご、ごめんなさい……!」
(こんなことをしては、また不愉快にさせてしまうかもしれないのに……!)
慌てて手を引っ込め謝罪をする。
けれど煌牙さんは……
煌牙「……なにゆえ、謝るか?」
どこか儚げな笑みを浮かべ、煌牙さんが柔らかな声音を奏でる。
煌牙「おぬしは、わしを慰めてくれたのであろう?」
◯◯「……はい」
煌牙「ならば、何も謝ることはないのじゃ」
その笑みはやはり儚げで、その上ひどく大人びたもので……
(なんだか胸が……とても騒いで……)
吸い込まれるようなその微笑から、目が離せなくなっていると……
煌牙「幼子の頃……はるか昔のことだが、感じたことのある温もりを思い出した。 もう一度……撫でてくれるか?」
甘えるように言いながら、やはりどこか大人びている。
不思議な魅力をまとい、煌牙さんは微かに瞳を潤ませた。
◯◯「……はい、私でよろしければ」
煌牙「おぬしがいいのだ」
言われてそっと手を差し伸べる。
煌牙さんは、ころんと私の膝の上に頭を乗せて小さく丸まった。
煌牙「気持ちが良い……おぬしの手は本当に……気持ちが良いのう……」
少し掠れたその声音が、脳裏に、鼓膜に焼きつくようだった…ー。