私をからかっていたかと思えば、不意に煌牙様の表情が険しいものになった。
どこを見るでもなく、至極真剣な表情で何かを探っているようだ。
◯◯「……大丈夫ですか?」
煌牙「うむ……」
どこか神経を尖らせた様子で、視線を鋭いままにお茶をすする。
(あ、そういえばお茶がなくなって……)
◯◯「私、またお茶を淹れますね」
と、立ち上がりかけた瞬間……
煌牙「待つのじゃ!」
◯◯「っ!」
鋭い声音で引き止められた。
(何が……あったの?)
あまりに深刻な様子に、驚きを隠せずにいると……
廊下から複数の足音が、慌てた様子で近づいてきた。
従者1「煌牙様!ご歓談中に失礼します」
煌牙「良い、入れ」
煌牙様が返事をすると、すぐに従者の方が数名頭を垂れて姿を現す。
従者2「煌牙様、結界に異変が……裏門になります。ご確認をお願いできますでしょうか」
(結界……?)
煌牙「そうか……いまだ、破られてはおらぬようだが、ちと強引な輩よのう……。 参る」
煌牙様が、すっと立ち上がる。
煌牙「◯◯。ちとすまぬ、賊がやってきたようだ。 危ないゆえ、おぬしはこの部屋で待つが良い」
◯◯「……!」
(賊って……)
◯◯「あの……!煌牙様は大丈夫ですか……?」
煌牙「わしか?」
意外そうに、大きな瞳が瞬く。
◯◯「はい、賊だなんて……」
煌牙「くくっ……わしは大丈夫に決まっておる」
煌牙様の瞳がすがめられ、さも面白いものでも見たかのように弧を描いた。
煌牙「とにかく、おぬしもここなら安全じゃ」
◯◯「……ありがとうございます。でも……邪魔にならないようにしますので、どうか一緒に連れて行っていただけないでしょうか?」
煌牙「何?おぬしを共に?」
◯◯「はい……」
煌牙様は、しばし驚きに目をしばたたかせていたけれど……
やがて、ふっと愛らしい顔に笑みを広げた。
煌牙「そうじゃな。一人で待つのは心細かろう。 よし、ついて参れ」
◯◯「……!ありがとうございます」
煌牙様と一緒に、裏門へ向かうため城を出ると、見上げれば太陽は煌めいているというのに、雨脚は先ほどよりも随分強くなっていた。
その状況のせいもあるのか、城下は慌ただしく、胸に不安が過ぎる。
◯◯「煌牙様……」
煌牙様にそっと傘を差し掛け、邪魔にならないよう寄り添った。
すると煌牙様は、しっかりと私の目を見つめ……
煌牙「心配するでないぞ。わしがついておるからな」
力強い笑みが、私の不安を和らげてくれたのだった…━。