煌牙様と一緒に輿に乗り、しばらく揺られていると、やがて輿が止まった。
(ついたのかな?それにしても立派な鳥居がいくつも並んでいて驚いた……)
通ってきた風景を思い出して、改めて感嘆のため息をこぼしていると…ー。
煌牙「ついたぞ。◯◯」
ごく自然に私の膝の上に乗っていた煌牙様が柔らかく微笑んだかと思えば、
身軽な動きで輿から軽快に飛び降りた。
そしてこちらを振り返り、得意気な笑みと共に手を差し出す。
煌牙「さ、手を取るがよい。危ないからな」
小さなもみじのような掌が差し伸べられている。
小柄な体で精一杯男性らしく振る舞おうとする様子が……
(どうしよう。可愛い……)
思わず緩んでしまう頬や、湧き上がる甘い愛おしさの感情に、なかなかその手を取ることができない。
すると煌牙様は、下から私の顔を覗き込んで……
煌牙「……何じゃ。もしや、わしのことを可愛いとでも思っているのではなかろうな……?」
やや拗ねた顔をして、怪訝そうに眉をひそめる。
◯◯「……!ご、ごめんなさい」
煌牙「つまり、可愛いと思っていたのじゃな」
◯◯「っ……!」
(わ、私、申し訳ないことを……?)
慌てていると、煌牙様の頬が少し膨らんで……
それから怒った様子でそっぽを向いてしまった。
(ど、どうしよう。この様子もすごく可愛くて……)
煌牙「可愛いなどと言われても、わしは少しも嬉しくなどないのだぞ! わしの齢は、とうに2000を超えているのじゃからな!」
すると、迎えに出ていた家臣の方々らしき人達が近寄ってきた。
皆、微笑ましそうに煌牙様のことを見ている。
家臣「まあまあ、煌牙様。◯◯様は何もおっしゃっておりませんから」
従者1「煌牙様、どうかお気になさらず」
煌牙「何じゃ。皆でわしを丸め込もうとしておるな……!」
お怒り気味でも、やっぱり可愛らしい煌牙様に、私は……
◯◯「あ、あの、煌牙様。お気に障ったのでしたらごめんなさい……」
煌牙「……ふんっ、そんな顔をされると、わしが悪いみたいじゃ!」
煌牙様は少し動揺した顔をして、また目を逸らしてしまった。
けれどその後、自身の気持ちを静めるように、煌牙様が深くため息を吐いた。
不意に大人びた陰が横顔に宿り、予期せずに鼓動がとくんと跳ねた。
煌牙「城門で騒ぐと、他聞を憚る……わしは、部屋に戻るぞ」
言い終えると、ほんの一瞬だけ私を見て……
それからすぐに背を向け、歩き始めてしまった。
◯◯「あ……」
小さな背中が、姿勢良く伸ばされ、ちょこちょこと歩き去って行く。
◯◯「私……すっかり怒らせて……」
家臣「いいえ、大丈夫でございます」
申し訳ない気持ちになり、思わず言葉に出してしまうと、家臣らしき男性が声をかけてくれた。
家臣「煌牙様はいつものことでございます。弟君の砕牙様も、あの愛らしさをよくからかっておいでで……」
家臣「しかし、煌牙様も負けじと砕牙様の幼い時分のお話を持ち出されたりして。 それは仲睦まじく過ごしておいでです」
その光景を想像してみると、心が温かくなるのを感じた。
◯◯「そうなんですね……教えてくださってありがとうございます」
家臣「いいえ。可愛いと言われることはお嫌いですが、今日は一段と大人ぶってらっしゃったような……」
◯◯「え……?」
家臣「いえ、何でもございません。◯◯様が、お美しいから意識なさっているのでしょうね」
◯◯「そ、そんなことは……」
家臣「失礼致しました。私が城内へご案内させていただきます」
ほのかな頬の熱を感じつつ、城内へと案内されることになった。
とても空気が澄んで感じられるこの国は、不思議だけど心が洗われるようだった…━。