第1話 煌牙の迎え

天狐の国・伊呂具 奏の月…ー。

まばゆい太陽が輝いているというのに、空からは優しい雨がしとしと降り注いでいた。

ひんやりとした湿度の高い空気が肌にまとわりつき、ぶるりと体が震える。

(煌牙様……傘を忘れないようにと手紙に書いてくれて、本当に助かった)

目覚めさせたお礼を改めてしたいとの手紙をもらい、私は煌牙様の国へ向かっている。

道中の山は険しく、歩きにくい足元が続いていた。

やがて、前方に見えてきたのは…ー。

(あれは……輿?)

狐面をかぶった男性達が、立派な輿を担いでいる。

どこか異様にも思える雰囲気に、足を止めた。

(不思議な光景……でも、少しも怖くない)

すると、輿は私のすぐ目の前で動きを止めて……

輿の簾がするすると上げられる。

煌牙「◯◯。険しい道中、ご苦労であったな」

◯◯「煌牙様……!」

そこからひょっこりと顔を出したのは、可愛らしい黒髪を揺らす煌牙様だった。

愛くるしく感じられる瞳がすうっと細くなり、唇は美しい弧を描いて笑みを作る。

煌牙「おぬしを迎えにきてやったぞ。ここから先は国からの招待を受けた者しか通れぬのでな」

(通れない……?)

よく理解できずにいると、煌牙様がふっと微笑む。

煌牙「この先の鳥居をくぐれどもくぐれども、招待されねば永遠に辿り着けぬのじゃ」

◯◯「そうなんですね……。 あの、ありがとうございます。わざわざ迎えにきていただくなんて申し訳ないです」

煌牙「良いのじゃ。おかげでおぬしの、謙虚で初い様子が見られたわい。 ささ、乗るが良い」

煌牙様の表情がことさら明るくなり、瞳が楽しげに煌めく。

そのさまはどきりとするほどに愛らしく、胸を躍らせたのだった…ー。

 

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