動物柄のリボンにくるまれた贈り物を手にした〇〇ちゃんが微笑めば、私の心はふわりと甘く温かな充足感に満たされていくようだった。
(〇〇ちゃんと、動物達……)
その可愛らしさに、頬を綻ばせていると…-。
〇〇「……っ」
ふと、〇〇ちゃんがぶるりと体を震わせた。
(いけない……!)
万里「……これで、大丈夫ですか?」
寒さから守ってあげたくて、彼女の肩をそっと腕に抱き込む。
小さな体がすっぽりと腕の中におさまって、愛しさが湧き上がった。
(この愛しさは……ぱんだちゃんに感じるものとは、違う)
〇〇「あ、ありがとう……」
ほんのりと染まったその頬に、自然と手が伸びる。
そっと柔らかな肌に触れれば、そこはひどく冷たくなっていた。
万里「……冷たくなってますね」
〇〇「でも……万里くんの手は温かいです」
万里「そうですか?」
幸せそうな顔をしてそう言う〇〇ちゃんに、鼓動がわずかに跳ねた。
彼女は返事の代わりに、優しく微笑む。
(この人といるとどうしてこんなにも、心が騒がしいんだろう……)
(可愛いものを見た時ともまた違う、胸のざわめきを感じる……)
万里「開けてみてください」
〇〇「! そうでした」
早くまた喜ぶ顔が見たくて、彼女の耳元で先を促せば、はっとしたように〇〇ちゃんは小箱に視線を落とす。
(この中身を見て、〇〇ちゃんはどう思ってくれるのだろう)
過ぎる不安と期待がない交ぜになりながら、胸中でひしめく。
―――――
〇〇『でも……素の万里くんを見られるのも嬉しいです』
―――――
(私が可愛いと思うものを、アナタも可愛いと言ってくれることが本当に嬉しい)
(だから…-)
丁寧にリボンをほどき、箱を開けた〇〇ちゃんは…-。
〇〇「! これって……ぱんだちゃん?」
箱の中には、私の大好きなぱんだちゃんの形のチョコレートがぎっしりだ。
万里「……気に入ってもらえましたか?」
もちろんだと言わんばかりに、〇〇ちゃんの顔がほころぶ。
けれどすぐに、少しだけ表情を曇らせて……
〇〇「でも、可愛すぎてなんだか食べるのがもったいないです……」
困ったように眉間に皺を寄せて、彼女はつぶやいた。
(! ……理解。でも…-)
万里「なら、食べさせてあげます」
〇〇「えっ?」
驚いた顔で私を見た〇〇ちゃんの口に、チョコレートを摘まんで放り込む。
〇〇「万里くん……」
一気に頬の赤みが増して、魅惑的な瞳が大きくなる。
(私まで……頬が熱くなりそうだ)
その思いをひた隠すように緩く微笑んで……
万里「私にも一粒いいですか?」
〇〇「は、はい……」
問いかければ、〇〇ちゃんは戸惑いがちに手を動かし、その細い指先にパンダのチョコレートを摘み上げる。
〇〇「……どうぞ?」
万里「はい、いただきます。アナタもどうぞ?」
お互いの口の中にチョコレートをゆっくりと押し込んでいく……
舌先で溶けるチョコレートは、普段も何倍も甘く感じられた。
万里「……うん、おいしい。でもアナタの言うこともわかります。 食べてしまうとなくなってしまうのが寂しいし、少し可哀想ですね」
箱の中に出来た空きを見ると、残ったぱんだちゃん達が少し寂しそうにしているようで…-。
〇〇「万里くんって、時々女の子より可愛いこと言いますよね」
(私が、可愛い?)
思ってもみなかった言葉に、私は小さく首を傾げる。
(その『可愛い』は……さっき私がアナタに感じた愛しさと似たようなものなのだろうか……)
言葉にできない思いを頭に巡らせるけれど、それを聞くことが何故かためらわれて、私は結局、曖昧に微笑んだ。
万里「そうですか? 女の子の言う可愛いは、たまに難しいな……。 でも様々なチョコを見ましたが、このお店のチョコを見た時が一番二人で盛り上がれた気がしたので。 昨日、アナタと別れた後にいろいろ調べて、特注で作ってもらったんです」
(可愛いには、いろんな種類があるようだけど……)
(私が一番可愛いと思ったものは、きっとアナタも可愛いと思ってくれるでしょう?)
万里「これなら私らしいし、アナタが一番喜んでくれるかなって……」
〇〇「……っ」
募る愛しさを伝えたくて、耳元で囁くと、〇〇ちゃんは、真っ赤になった耳を両手で押さえて恥ずかしがった。
(本当に、可愛い人……)
万里「この日に、アナタに私の愛を伝えたかった……。 好きです、〇〇ちゃん……」
そっと彼女の唇に自分の唇を寄せると、彼女も恥じらいながらも静かにまぶたを閉じてくれた。
(甘い……)
幸せな甘さを感じながら、彼女との口づけに酔いしれる。
箱の中で、ぱんだちゃん達が少し恥ずかしそうに囁き合っているような気がした…-。
おわり。