二人でショコルーテの街に出ると、私達は街の中心にある広場に向かった。
空気は冷たいけれど、今日は太陽も出ており風もそう吹いていない。
(万里くん、私のために何を選んでくれたんだろう?)
期待に満ちた気持ちで、広場のベンチに隣り合って腰かける。
その時…―。
○○「……っ」
一瞬、木枯らしが吹きつけて寒さに身震いをしてしまった。
万里「……これで、大丈夫ですか?」
○○「あ……」
私との距離を詰めた万里くんが、私の肩を抱き寄せてくれた。
○○「あ、ありがとう……」
近づく彼の顔が……
そして私の頬に伸ばされた指先が、くすぐったい。
万里「……冷たくなってますね」
○○「でも……万里くんの手は温かいです……」
万里「そうですか?」
少し目を大きくして、彼が柔らかな笑みを口元に浮かべる。
(こうして二人でいると、心が温かくなってくる……)
少しだけ恥ずかしくて、彼の腕の中で小さくなれば、万里くんの優しい囁きが私の耳に届けられた。
万里「○○ちゃん、開けてみてください」
○○「! そうでした」
手にしていた小箱に視線を落とす。
(ドキドキする……何が入ってるんだろう?)
胸を高鳴らせながら、リボンをほどいて、箱を開けると…―。
○○「! これって……ぱんだちゃん?」
小さな箱の中には、万里くんの大好きなぱんだちゃんの形のチョコレートがぎっしり入っていた。
○○「可愛い……」
万里「……気に入ってもらえましたか?」
そう問いかける彼の頬は、少しだけ赤く染まっていて…―。
○○「もちろんです、ありがとうございます。でも…―。 可愛すぎてなんだか食べるのがもったいないです」
箱の中に収まるぱんだちゃん達に見つめられると、その愛らしさをいつまでも眺めていたくなる。
すると……
万里「なら、食べさせてあげます」
○○「えっ?」
次の瞬間、彼の長い指先がチョコレートを摘まんで私の唇に触れた。
頬に熱が上がる……
○○「万里くん……」
万里「私にも一粒いいですか?」
○○「は、はい……」
戸惑いながら、指先で小さなぱんだちゃんを摘まむ。
○○「……どうぞ?」
万里「はい、いただきます。アナタもどうぞ?」
互いの口の中にチョコレートをゆっくりと押し込んでいく……
舌先に触れたチョコレートがとろけて、甘い幸せが口の中に広がった。
万里「……うん、おいしい。でもアナタの言うこともわかります。 食べてしまうとなくなってしまうのが寂しいし、少し可哀想ですね」
少なくなった箱の中を見て彼がそんなことを言う。
○○「万里くんって、時々女の子より可愛いこと言いますよね」
万里「そうですか? 女の子の言う可愛いは、たまに難しいな……。 でも様々なチョコを見ましたが、このお店のチョコを見た時が一番二人で盛り上がれた気がしたので。 昨日、アナタと別れた後にいろいろ調べて、特注で作ってもらったんです」
彼の、微かに甘いチョコの香りの吐息が私の耳元にかけられる。
万里「これなら私らしいし、アナタが一番喜んでくれるかなって……」
○○「……っ」
くすぐったさに耳を押さえて彼の顔を見れば、彼は新たなチョコを摘まんだ手を顔の横にやって微笑む。
○○「ぱんだちゃんや可愛いものでいっぱいなこの街も素敵だけど……。 やっぱり、万里くんが一番かわ……ええと、素敵です」
口にしかけた言葉を言い直すと、彼は摘まんだチョコを私の口の中に押し込んで……
万里「この日に、アナタに私の愛を伝えたかった……」
ゆっくりと言葉が紡がれて、彼の唇が私に近づく。
万里「好きです、○○ちゃん……」
そう口にした彼の唇が私の唇を柔らかに塞ぐ。
チョコレートよりもずっと甘い幸せが胸に広がって……
私はゆっくりとまぶたを閉じたのだった…―。
おわり。