愛の日が近づくショコルーテの街…―。
万里くんと次に訪れたのは、路地裏にある小さなケーキショップだった。
○○「このお店も素敵ですね……!」
店の外に面したショーウインドウから中を覗くと、さまざまな種類のチョコレートケーキがケースの中や上に並んでいる。
万里「○○ちゃん、可愛いケーキがあります!中に入ってみましょう!」
待ちきれないといった様子で、万里くんが私を促す。
(万里くんの方が……可愛いかも)
そんなことを思いながら、私も急ぎ足の彼に続いたのだった…―。
店の中に入ると、チョコレートの甘い香りが漂ってきた。
○○「すごい……これ全部チョコレートケーキなんですよね?」
万里「こんなに種類があるとは……実際に並んでるのを見ると壮観ですね」
ガトーショコラにザッハトルテ、オペラ、ブラウニーと……ガラスケースの中に並べられた何十種類ものケーキを、万里くんは一つ一つ眺めていく。
(万里くん、真剣な表情……)
私は、しばらく彼と一緒にガラスケースを眺めていたけれど……
(万里くん、まだ熱心に見てる)
万里くんの顔つきは、可愛いものを見て喜んでいるいつもの表情ではなく……
万里「……」
時折、迷うように目を細める万里くんの様子に、私は小首を傾けるけれど…―。
(他のお客さんもいるし……私は少しどいていようかな)
私は店の端の方に移動すると、窓の外から冬の空を見上げた。
少しの間、雲が空を流れていく様子を見ていると……
万里「すみません!」
○○「もういいんですか?」
戻ってきた彼は何やら様々なチラシやカタログを手にしている。
○○「あれ、あんなに夢中で見てたのに、ケーキ買わなかったんですか?」
万里「……いいんです。 それよりも誘っておいてアナタを退屈させてしまうなんて……申し訳ない」
すっかり肩落としてしまっている万里くんに、私は……。
○○「そんなことないです」
万里「ですが、私ばかり熱中してたようだったので……」
彼は手にしていたカタログの類をまとめると、脇に抱え込んだ。
万里「いけませんね……ですが、一つだけ選ぶと考えると、熱が入ってしまって。 ファンの子達も、こんな思いで私にプレゼントを選んでくれているのでしょうか……」
(万里くん……)
万里「!すみません、アナタといるのに、つい…―」
○○「……いいえ」
すまなさそうな眉根を寄せる彼に、私は自然と笑いかけていた。
○○「ファンの子達のことをいつも一番に考える万里くんは、素敵だと思います。 でも……素の万里くんを見られるのも、嬉しいです」
万里「○○ちゃん……」
○○「あ…―」
自然と紡いでしまった言葉に、頬を熱くしていると…―。
万里「よし……決めました!」
○○「え?決めたって何をですか?」
万里くんは様々なケーキが並ぶ店の中を見渡して、大きく息を吸い込んだ。
その目は少年のように若々しく輝いているのだった…―。