愛の日に賑わうショコルーテの街並みを万里くんと共に歩いていた時だった…―。
街の女の子1「あれ?もしかして今の万里様?」
通りがかりに、万里くんの姿を見た女の子が声を上げた。
その子の周りにいた女の子達も、はじかれたようにこちらを振り向く。
(どうしよう、騒ぎになったら……!)
慌てて万里くんを見上げると……
○○「あ……」
万里くんの大きな手がとっさに私の手から離れた。
冬の風の中に放られた手の冷たさに、胸が一瞬切なくなる。けれど…―。
万里「こっちへ!」
○○「!?」
耳元に小さく囁かれたかと思えば、万里くんの腕が女の子から身を隠すように私を抱きしめた。
(嘘……)
瞬時に胸が高鳴り、頬が熱くなる……
(万里くんの腕……こんなに力強いんだ……)
胸は未だ大きく跳ね続けたまま、そっと彼を腕の中で見上げれば……
万里「……大丈夫。ここからなら死角になって見えません」
店の角に隠れた彼が薄い唇に人差し指をあてて、私に沈黙を促した。
そっと建物の陰から大通りを見ると、女の子達は辺りを見回している。
街の女の子2「いないよ?気のせいだったんじゃない?」
街の女の子1「他人の空似かなぁ……残念」
しばらくすると、女の子達は首を捻りながらその場を去っていった。
万里「もう大丈夫です……あっ」
万里くんは自分の腕の中にいる私を見て、慌てて手を離した。
万里「すみません!とっさの判断とはいえ、その……アナタに失礼を働いて」
恐縮する万里くんに…―。
○○「え……?どうして謝るんですか?」
万里「……○○ちゃん?……」
○○「……」
離れたとはいえ、彼との距離は近い。
二人して互いの顔を見たまま、顔を赤くしているようで……
(どうしよう……)
なんだかくすぐったい感覚を覚え、そっと万里くんから視線を外せば…―。
万里「……っ、なんだかおかしいですね」
○○「え……?」
ふっと柔らかな声を漏れて、彼に視線を戻す。
すると万里くんはクスクスと小さく笑っていた。
○○「万里くん?」
万里「すみません。なんか今の……間がおかしくて。 でも気づかれなくてよかったです。今日はアナタとの時間を大切したかったので……。……ファンの皆さんには、申し訳ない気持ちですが」
そっと彼の手がもう一度、私の手に伸ばされる。
○○「……私もです」
万里「本当ですか?」
○○「はい、万里くんとこうしてショコルーテの街を回れるの、とても楽しいですから」
万里「アナタの口からそう言ってもらえると嬉しいです」
万里くんは改めて、メインストリートに並ぶ色とりどりのチョコレートショップに目を向けた。
万里「もう一度、街を一緒に回りましょうか? せっかくいろいろなチョコレートが出揃ってますから」
○○「はい、万里くん」
頷けば彼の手のひらが、もう一度私の手をしっかりと包み込む。
それだけで、甘い香りが心にまでふわりと広がった気がした…―。