第3話 危機一髪

愛の日に賑わうショコルーテの街並みを万里くんと共に歩いていた時だった…―。

街の女の子1「あれ?もしかして今の万里様?」

通りがかりに、万里くんの姿を見た女の子が声を上げた。

その子の周りにいた女の子達も、はじかれたようにこちらを振り向く。

(どうしよう、騒ぎになったら……!)

慌てて万里くんを見上げると……

○○「あ……」

万里くんの大きな手がとっさに私の手から離れた。

冬の風の中に放られた手の冷たさに、胸が一瞬切なくなる。けれど…―。

万里「こっちへ!」

○○「!?」

耳元に小さく囁かれたかと思えば、万里くんの腕が女の子から身を隠すように私を抱きしめた。

(嘘……)

瞬時に胸が高鳴り、頬が熱くなる……

(万里くんの腕……こんなに力強いんだ……)

胸は未だ大きく跳ね続けたまま、そっと彼を腕の中で見上げれば……

万里「……大丈夫。ここからなら死角になって見えません」

店の角に隠れた彼が薄い唇に人差し指をあてて、私に沈黙を促した。

そっと建物の陰から大通りを見ると、女の子達は辺りを見回している。

街の女の子2「いないよ?気のせいだったんじゃない?」

街の女の子1「他人の空似かなぁ……残念」

しばらくすると、女の子達は首を捻りながらその場を去っていった。

万里「もう大丈夫です……あっ」

万里くんは自分の腕の中にいる私を見て、慌てて手を離した。

万里「すみません!とっさの判断とはいえ、その……アナタに失礼を働いて」

恐縮する万里くんに…―。

○○「え……?どうして謝るんですか?」

万里「……○○ちゃん?……」

○○「……」

離れたとはいえ、彼との距離は近い。

二人して互いの顔を見たまま、顔を赤くしているようで……

(どうしよう……)

なんだかくすぐったい感覚を覚え、そっと万里くんから視線を外せば…―。

万里「……っ、なんだかおかしいですね」

○○「え……?」

ふっと柔らかな声を漏れて、彼に視線を戻す。

すると万里くんはクスクスと小さく笑っていた。

○○「万里くん?」

万里「すみません。なんか今の……間がおかしくて。 でも気づかれなくてよかったです。今日はアナタとの時間を大切したかったので……。……ファンの皆さんには、申し訳ない気持ちですが」

そっと彼の手がもう一度、私の手に伸ばされる。

○○「……私もです」

万里「本当ですか?」

○○「はい、万里くんとこうしてショコルーテの街を回れるの、とても楽しいですから」

万里「アナタの口からそう言ってもらえると嬉しいです」

万里くんは改めて、メインストリートに並ぶ色とりどりのチョコレートショップに目を向けた。

万里「もう一度、街を一緒に回りましょうか? せっかくいろいろなチョコレートが出揃ってますから」

○○「はい、万里くん」

頷けば彼の手のひらが、もう一度私の手をしっかりと包み込む。

それだけで、甘い香りが心にまでふわりと広がった気がした…―。

 

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