第2話 今日を楽しみに

甘い匂いがそこここに漂う、賑わうショコルーテの街…―。

私は彼と肩を並べ、ひときわ店が多く立ち並ぶメインストリートを巡っていた。

○○「久しぶりに来たんですが、街の様子が以前とちょっと変わっていますね」

万里「……そのよう、ですね……」

○○「万里くん?」

賑わう街の中、万里くんは気もそぞろといった様子でどこか落ち着きがない。

(やっぱりなんだか今日の万里くん、ちょっと変?)

○○「もしかしてこの後、お仕事とか入ってるんですか?」

万里「えっ」

驚きをたたえた万里くんの瞳が、私をまじまじと見つめる……

○○「もし忙しいなら無理をしなくても……」

万里「そんなことはない!せっかくこうしてアナタと再会できたんです。 その…―」

彼は一瞬言い淀んだ後、顔を上げて私の手をしっかり掴んだ。

その手の力強さに、つい私はたじろいでしまう。

万里「……今日をすごく、楽しみにしていたんです。行きましょう、○○ちゃん」

○○「……っ!」

(今……万里くん、私の名前……)

突然のことに胸がきゅっとしたのも束の間…―。

彼は私の手を取って歩き出した。

○○「あ……待ってください」

すらっとした彼の歩幅は、私の一歩よりずっと大きい。

慌てて私が歩くスピードを上げると、万里くんははっとして、私の歩幅に合わせてくれた。

(どうしてかな?今日はこの前会った時よりどきどきする……)

私の手を包む彼の手のひらの大きさに、胸が熱くなる。

(それに街もすごく賑やかだし……)

○○「街が楽しそうだと、一緒に歩いているだけでとても楽しいですね」

万里「はい。『愛の日』が近いので、それに合わせているのでしょう」

○○「愛の日?」

万里「○○ちゃんのいた国ではなかったんですか? 愛の日は『贈り物を通じて思いを伝える日』と言われていた、ちょうどその日が明日なんです」

○○「へえ……素敵ですね!」

(贈り物を通じて思いを……バレンタインみたいなイベントなのかな?)

茶色と赤でデコレーションされた街並みは、洗練された上品さの中にも可愛さを感じる。

(もしかして……)

隣を歩く彼の顔を私は見上げた。

少し落ち着きなくは思えるけれど、見ようによって期待感を募らせているようにも見える。

(万里くん、可愛いものが好きだから、この街の様子を見て嬉しかったのかな?)

万里「愛を伝える贈り物にチョコレート……私もいいアイディアだと思います」

○○「はい、甘いチョコレートって食べると幸せな気分になりますね」

それから互いの好きなチョコレートの話になって、会話を弾ませていると……

街の女の子「あれ?もしかして今の万里様?」

○○「!」

すれ違った女の子が立ち止まり、万里くんの背に視線を向けたのだった…―。

 

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