甘い匂いがそこここに漂う、賑わうショコルーテの街…―。
私は彼と肩を並べ、ひときわ店が多く立ち並ぶメインストリートを巡っていた。
○○「久しぶりに来たんですが、街の様子が以前とちょっと変わっていますね」
万里「……そのよう、ですね……」
○○「万里くん?」
賑わう街の中、万里くんは気もそぞろといった様子でどこか落ち着きがない。
(やっぱりなんだか今日の万里くん、ちょっと変?)
○○「もしかしてこの後、お仕事とか入ってるんですか?」
万里「えっ」
驚きをたたえた万里くんの瞳が、私をまじまじと見つめる……
○○「もし忙しいなら無理をしなくても……」
万里「そんなことはない!せっかくこうしてアナタと再会できたんです。 その…―」
彼は一瞬言い淀んだ後、顔を上げて私の手をしっかり掴んだ。
その手の力強さに、つい私はたじろいでしまう。
万里「……今日をすごく、楽しみにしていたんです。行きましょう、○○ちゃん」
○○「……っ!」
(今……万里くん、私の名前……)
突然のことに胸がきゅっとしたのも束の間…―。
彼は私の手を取って歩き出した。
○○「あ……待ってください」
すらっとした彼の歩幅は、私の一歩よりずっと大きい。
慌てて私が歩くスピードを上げると、万里くんははっとして、私の歩幅に合わせてくれた。
(どうしてかな?今日はこの前会った時よりどきどきする……)
私の手を包む彼の手のひらの大きさに、胸が熱くなる。
(それに街もすごく賑やかだし……)
○○「街が楽しそうだと、一緒に歩いているだけでとても楽しいですね」
万里「はい。『愛の日』が近いので、それに合わせているのでしょう」
○○「愛の日?」
万里「○○ちゃんのいた国ではなかったんですか? 愛の日は『贈り物を通じて思いを伝える日』と言われていた、ちょうどその日が明日なんです」
○○「へえ……素敵ですね!」
(贈り物を通じて思いを……バレンタインみたいなイベントなのかな?)
茶色と赤でデコレーションされた街並みは、洗練された上品さの中にも可愛さを感じる。
(もしかして……)
隣を歩く彼の顔を私は見上げた。
少し落ち着きなくは思えるけれど、見ようによって期待感を募らせているようにも見える。
(万里くん、可愛いものが好きだから、この街の様子を見て嬉しかったのかな?)
万里「愛を伝える贈り物にチョコレート……私もいいアイディアだと思います」
○○「はい、甘いチョコレートって食べると幸せな気分になりますね」
それから互いの好きなチョコレートの話になって、会話を弾ませていると……
街の女の子「あれ?もしかして今の万里様?」
○○「!」
すれ違った女の子が立ち止まり、万里くんの背に視線を向けたのだった…―。