イラさんに目隠しをして、しばらく経った頃……
護衛「イラ様が……イラ様が、3度目のイラ様を発動なさらなかった……!」
静まり返っていた庭に、歓喜の叫び声がこだまする。
イラ「〇〇さん……」
そっと目隠しを取ると、イラさんが呆然と私を振り返った。
イラ「初めてだ……途中で憤怒の情を抑えることができたのは……。 なぜ目隠しを? 君は魔法使いなの?」
(なぜって……咄嗟にしたことだけど……)
〇〇「えっと……イラさんが、すべてのことから目を逸らせない、真っ直ぐな人だから……だと思います」
イラ「どういうこと?」
イラさんは首を傾げ、私の手首をそっと掴んで引き寄せる。
〇〇「うーん……大人になると、人って色んなものに目を瞑ると思うんです。 傷つきたくないとか、自分には関係ないと思いたいとか、他のことで手一杯とか、いろんな理由で」
必死に考えながら、イラさんの澄んだ瞳を見つめた。
〇〇「それを、優しいとか、穏やかとか、いろんな風に呼ぶこともあるけど。 イラさんは、目を瞑るかわりに怒るんです。いろんなものから目を逸らせない純粋で優しい人だから」
イラ「優しい……?僕が……?」
〇〇「はい。だから……イラさんにできないのなら、目隠しをしてあげたくなった……んだと思います。 だって、怒った後にイラさんは傷ついているから。自分を責めて、後悔しているから」
イラ「〇〇……」
イラさんは、驚いたように私を見つめている。
そして……
〇〇「え……?」
視界が温かな手で遮られる。
〇〇「イラさん……? どうしたんですか?」
イラ「しばらく、このままで」
耳元で彼の声がして、胸が大きく音を立てた。
イラ「なんでもよく見えてしまう君に、目隠しをしてあげたくなったんだ。 そんなに人の心を思いやれると、苦しいこともあるだろうから。 それに……今、どんな顔してるかわからないから、見られたくない」
(照れた顔、してるのかな)
〇〇「あの……見たいです」
イラ「駄目」
イラさんは、私の首筋に唇を寄せる。
〇〇「……っ」
あまりに突然のキスに、ほとんど飛び上がりそうになる。
イラ「これからも……僕が憤怒に飲み込まれそうになったら、目隠しをしてくれる?」
〇〇「……はい」
震える声で答えると、イラさんがはにかむのがわかった。
イラ「それなら……僕、きっとこれからも穏やかでいられると思う。 ただ、困ったことがあるんだけど」
〇〇「困ったこと……?」
イラ「うん。目を閉じてみても、まぶたの裏に君の微笑みが浮かぶんだ。 こればっかりは目隠ししてみても無駄だと思うんだけど……僕、どうしたらいいかな?」
(イラさん……!)
胸が甘く締めつけられて、私は何故だか笑ってしまう。
目隠ししている彼の手をはずし、彼をそっと抱きしめた…-。
おわり。