頬を撫でる風が、突然に涼しくなったある日…-。
私は、シャーロット文学賞の授賞式に招かれ、文壇の国・ミステリアムへとやってきていた。
(藤目さん……文学賞を受賞するなんてすごい)
先日、眠りから目覚めた藤目さんは、王子でありながらも恋愛小説を書く作家だった。
(本当に素敵なラブストーリーだったな)
ここへ来る旅路……
私はずっと、今回賞を受賞する藤目さんの作品『木漏れ日の恋』を読んでいた。
直接お祝いを言いたくて、私は藤目さんの登場を心待ちにしていた。
アナウンス「授賞者の登場まで、いましばらくご歓談をお楽しみください・・・-」
もう何度目かのこのアナウンスに、会場内が大きくざわめく。
(藤目さん、まだかな)
(すごい人で、ちょっと人酔いしてしまったかも……)
一向に姿を現さない藤目さんを心配しながらも、私は少しだけ外に出ることにした。
爽やかな空気の中、少しだけ会場の外を歩く。
すると、木陰に見覚えのある人影を見つけた。
(あれは……)
〇〇「ふ、藤目さん?」
藤目さんは、びくりと肩を震わせる。
藤目「よかった……貴方でしたか」
〇〇「どうしたんですか?」
藤目さんは、私を木陰に引き込み、人目を気にするそぶりを見せる。
藤目「……風が気持ちよかったものですから」
〇〇「……皆さん、待ってますよ」
笑いかけると、藤目さんは私に背を向けてしまった。
藤目「……駄目だ」
〇〇「え?」
藤目「私には、とてもあのような場に立つことはできない」
そう言い捨てて、藤目さんは早足に去って行く。
〇〇「ふ、藤目さん……!」
私は慌てて彼の後を追った…-。