ライブ当日を迎え、俺は○○と共に会場へと向かった。
(会場では、ほかのアイドルが既にリハーサルを始めているはずだ。 なにぶん初めてのことだ…○○と一緒に見てみるか)
だが着いてみれば、会場はひどい混乱状態となっていた。
フロスト「どうしたんだ?」
スタッフ1「それが実は…」
渋い顔をするスタッフの視線の先をを辿ると、そこには黒く四角い器具が置かれていた。
○○「これは…」
スタッフ2「ステージの演出に使う大事な器具なんですが、どうも調子が悪いんです。 特殊な器具で、代替がなく…これがあるとないとでステージの映え方が全く違うんですよね。どうしたものか…」
○○「そんな…」
慌てた様子で、あちこちを行き来する者…
その場に呆然と立ち尽くす者…-。
ステージに立つ予定のアイドル達も不安そうな表情を浮かべている。
(始まる前からこんな表情をしていては、成功するものもしないだろう)
そのような空気を初心者ながらに感じ取り、俺は舞台監督へと歩み寄った。
舞台監督「仕方ない、予定していた演出はなしで…」
フロスト「どのような演出を予定していた?」
舞台監督「え、ええ…光が雪のようにステージ上に降り注ぐ演出で」
(…雪のように、か)
ふっと、知らず笑みが漏れる。
フロスト「なるほどな。任せておけ」
俺が右手を掲げると…-。
○○「あ…」
まばゆい光の粒子がどこからともなく、ステージ上に降り注いだ。
舞台監督「…!で、できればもっと派手に…!」
フロスト「わかった」
その言葉に両手を掲げ、さらに大粒の光もまばらに降らせて見せる。
そして気づけばステージ上は、美しく神秘的な世界へと変貌を遂げていた。
ふと見れば、○○もうっとりとした表情で光の粒を眺めている。
(…随分と良い表情をしているじゃないか。 だが…ステージはまだ、始まってもいない)
その横顔を見て、俺は彼女に強く告げる。
フロスト「○○。ステージは最前列で見ていろ」
彼女にそういい渡すと、俺はすぐに本番の準備へ向かった…-。
ライブは無事開催され、ついに俺の番が回ってきた。
(せっかくの挑戦だ。素晴らしいステージにしてみせよう)
フロスト「~♪」
歌い始めると、あの日見たアイドルのライブのように、観客席は色とりどりのライトが揺れ、熱狂的な歓声が会場中から上がる。
(これが、アイドルというものなのだな)
その時…歓声の中に紛れて、聞き馴染んだ声が聞こえた気がした。
はっとして、最前列の席を見ると…そこには座っていたはずの○○が立ち上がって、俺の名を呼ぶ姿があった。
フロスト「…!」
(お前のそんな表情を見るのは、初めてだな。…そんなに声を張り上げているお前を見るのも)
ふと、レッスン中に彼女が俺の観客役を演じていた時のことを思い出す。
(あの時の表情とは、また違う。 彼女を突き動かすものは『アイドル』なのか…それとも俺自身なのか)
疑問がふと浮かび上がるが、今はそんなことはどうでもよかった。
興奮する彼女や皆の姿を見ると、俺の心もただただ高揚していく。
そして…-。
フロスト「皆、今日は俺のステージを盛り上げてくれて感謝する。 このステージに立てたことを、光栄に思う。 アイドルとは、本当に興味深い文化だ。 高潔なる雪の一族として…未だかつて体験したことのないステージを見せてやろう。これからが始まりだ…!」
場内の熱が、一気に上がるのを肌で感じる。
それと同時に、ステージ上に舞う光の雪もいっそう輝きを放ち始めた。
(アイドルであろうが、なんであろうが…どこまでも挑戦し続けてやる)
最前列にいる○○を再び見て、俺は宣言するように歌い続ける。
(俺という存在を、お前に伝えるためにな)
俺はマイクを握って、自分が降らせる光よりも輝くように、想いを込めて歌い続けた…-。
おわり。