そしてついに迎えた、ライブ当日…
緊張と期待を胸に、フロストさんと一緒にライブ会場へ向かったけれど…-。
フロスト「…何事だ?」
会場は、スタッフ達が右往左往して、騒動になっている様子だった。
○○「何があったんでしょうか…」
私がそうつぶやいた時には、フロストさんは騒ぎの渦中へ歩き出していた。
フロスト「どうしたんだ?」
スタッフ1「それが実は…」
○○「っ…!」
渋い顔をするスタッフさんの視線を辿ると、その先には、黒く四角い器具が置かれていた。
○○「これは…」
スタッフ2「ステージの演出に使う大事な器具なんですが、どうも調子が悪いんです。 特殊な器具で、代替がなく…これがあるとないとでステージの映え方が全く違うんですよね。どうしたものか…」
○○「そんな…」
周りを見れば、ほかのアイドルの人達も不安そうな表情で、その場を見守っているようだった。
(このままじゃ、フロストさんのステージが…)
フロスト「…」
(フロストさん?)
フロストさんの視線を感じ、彼の方を振り向く。
視線が絡むと、彼はしばらく私を見つめた後、舞台監督へと歩み寄った。
(え…?)
舞台監督「仕方ない、予定していた演出はなしで…」
フロスト「来てくれる客の期待を裏切るわけにはいかない」
舞台監督「そ、それは私だってそうですが…」
フロストさんの言葉に、その場にいた舞台監督の男性が眉をしかめる。
すると、フロストさんが一歩前に立ち…
フロスト「どのような演出を予定していた?」
舞台監督「え、ええ…光が雪のようにステージ上に降り注ぐ演出で」
雪と聞いて、フロストさんの顔に自信に満ちた笑みが浮かべられる。
フロスト「なるほどな。任せておけ」
そう言ったかと思えば、すっと右手を上に掲げ…-。
○○「あ…」
まばゆい光の粒が、その場にちらちらと降り始める。
スタッフ1「こ、これは…」
スタッフ2「すごい…!」
フロスト「これでいいか」
舞台監督「…!で、できればもっと派手に…!」
フロスト「わかった」
今度はフロストさんの両手が美しく宙を舞う。
また輝く魔法がかけられたかと思えば…ステージには溢れんばかりの輝きが放たれていた。
フロスト「これで問題ないな」
舞台監督「なんて素晴らしい…」
フロスト「アイドルとしては新米だが、スノウフィリアの第一王子としてこれくらいは容易い」
威厳のある様子でフロストさんはそう言うと、圧倒されている皆から視線を外し私を振り返った。
フロスト「さて、俺は楽屋へ向かう。 ○○。ステージは最前列で見ていろ」
そういうと、すぐにフロストさんは準備へ向かう。
その場にいた誰もが、彼の堂々とした背中に目を奪われていた…-。
会場内が熱気に溢れる。
一時はどうなるかと思ったけれど、フロストさんのおかげで事なきを得た。
それからすぐに…ぱっと照明が落とされたかと思えば、もう何度も聴いていたフロストさんの曲が
流れ始めた。
曲の始まりと共に、ステージにスポットライトが当たり、フロストさんが姿を現す。
フロスト「~♪」
低く美しいフロストさんの歌声が、会場の雰囲気を支配する。
スノウフィリアの王子が歌うと聞いて詰めかけた観客達から、割れそうなほどの矯声が溢れかえった。
(フロストさん…あんなに堂々としてて。 それに、これまでのリハーサルの中でも一番素敵…!)
私も興奮のままに立ち上がり、フロストさんに声援を飛ばすと…
フロスト「…!」
フロストさんと視線が合った気がした。
不遜な笑みを一瞬私に見せた後、すぐにその視線は外されて…
フロスト「皆、今日は俺のステージを盛り上げてくれて感謝する。 このステージに立てたことを、光栄に思う。 アイドルとは、本当に興味深い文化だ。 高潔なる雪の一族として…未だかつて体験したことのないステージを見せてやろう。 これからが始まりだ…!」
場内が一体化して、熱狂し続ける。
たったこれだけの期間で、輝くアイドルになってしまったフロストさんにどこまでもついていきたいと、私はスポットライトを浴びる彼を見つめながら、心からそう思ったのだった…-。
おわり。