ライブ当日…-。
楽屋で出番を待つ中、俺は自分の胸の内のざわめきをにわかに感じ取っていた。
フロスト「緊張をしているようだ。珍しいことだな」
○○「大丈夫ですか?」
フロスト「ああ、悪くない。いい緊張感だ」
(こういった緊張感はなかなか味わえるものではない。 しかし、やはり…)
観客たちの歓声が、こちらまで押し寄せてくる。
(怖いなどというわけではないが、落ち着かないものだ)
その時、手に温かな感覚を覚えた。
みれば、○○の柔らかな手のひらが俺の手の甲に重なっている。
○○「フロストさん。頑張ってください」
そういう○○の顔の方こそ、緊張で強張ってしまっている。
(…かわいい奴だ)
フロスト「心配するな。この俺を誰だと思っている」
一言そう告げ、俺はステージへと歩みを進めた…-。
熱狂的な歓声の中、俺はスポットを一心に浴び、自らが詩を編んだ曲を歌い上げた。
(この歓声…アイドルとして、ステージを成功させられたということか)
達成感と心地よい疲労感に包まれながら、俺は楽屋に戻った。
すると、沢山のスタッフがいっせいに駆け寄ってくる。
スタッフ1「フロスト様、お疲れ様です!」
スタッフ2「最高のステージでした!」
皆、一様に顔を輝かせている。
(この者達にも世話になったな。 自身の力が大きいと思っていたが…アイドルとは、支える者達あってこそなのだな)
そんな思いで、それぞれに礼を言い、ステージでの感触を話していると…
視界の隅に、○○の姿を見つけた。
(…?なぜ、そんな隅に…)
しかし…俺が話しかけようとする前に、彼女はなぜか傷ついたような顔をして、踵を返してしまった。
(やれやれ…)
スタッフ達に一言断り、○○の後を追う。
フロスト「おい」
○○「っ…!」
フロスト「なぜ、俺の元へ来なかった」
○○「…あの、それは…」
薄く開かれた唇から、それ以上の言葉は出ず…その瞳も、揺れるばかりだった。
(…まったく)
彼女のその表情が、言葉より雄弁に何を思っているかを語っている。
(かわいい奴だ)
俺は掴んだ腕をそのまま強く自分に引き寄せ、彼女を腕の中にきつく抱く。
○○「っ…!?」
フロスト「何を拗ねている」
○○「拗ねてなんて…」
フロスト「嘘を吐くな。 お前の考えていることなどわかる」
○○「…っ」
俺は、そのまま○○の唇を奪った。
(熱い…)
ステージの高揚感がまだ残っているのか、体は熱く、一筋の汗が俺の頬を伝う。
けれどそれ以上に、○○の顔は火照っていた。
フロスト「馬鹿な奴だ」
(アイドルというものは大変だな)
それでも、○○に抱かれた嫉妬は心地よかった。
(だが、俺が仮にアイドルだったとしても…)
彼女を抱きしめる際に、我知らず力が入る。
フロスト「どれだけ人から支持を得ようとも、俺の女はお前だけだ。わかったな」
○○「はい…すみませんでした」
その返事に満足し、俺は改めて先ほど立ったステージを眺める。
フロスト「舞台で堂々としたパフォーマンスを見せると言うのは、王として重要な素養かもしれん。 俺はこの国に来れて良かったと思っている。良い経験となった。 お前にも礼を言いたい」
〇〇「そんな…私は何も」
フロスト「俺が礼を言っている。 素直に受け取れないのか」
(まったく…謙遜も度が過ぎると厄介なものだ。 だが…)
ロスト「まあ、今は苦言はやめておこう」
(俺は今、気分がいい)
唇を彼女の耳元に寄せ、その理由を囁きかける。
フロスト「それに…お前が、このように拗ねる様子も見られた…それも、満足だ」
愉しげな彼の囁きが、鼓膜を甘く震わせる。
○○「っ…は、恥ずかしいです」
フロスト「恥ずかしいなどと意味のないことだ。 先ほども言ったが…お前が思っていることは、全てわかる」
○○「っ…」
ますます頬を赤くさせる○○につられ、俺の心もまた高揚する。
フロスト「お前も、俺の考えていることを分かるようになれ。そしてこれからも、俺の傍でサポートを続けろ」
○○「え…?」
今までにない興奮が押し寄せ、俺を饒舌にさせていた。
(世界には、まだまだ未知のことがあるようだ)
フロスト「俺はこれからも、雪の一族として高みへ向かう足を止めるつもりはない。 どこまでもついてこい。わかったな?」
すると○○は、小さく…だが、しっかりと頷いたのだった…-。
おわり。