そして、ついに迎えたライブ当日…
今日はゲストとしてフロストさんの出演が決まっている。
フロスト「…緊張をしているようだ。 珍しいことだな」
楽屋で出番を待っていると、フロストさんがどこか落ち着きなく手を動かしながらそう言った。
○○「大丈夫ですか?」
フロスト「ああ、悪くない。いい緊張感だ」
(緊張していても、少しも臆さないなんて…さすがフロストさんだな)
○○「フロストさん、頑張ってください」
気が付けば。私も不思議な気分の高揚のままに、フロストさんの両手を握りしめていた。
(少し、冷たい…)
冷えた手を、強くしっかりと包み込むように握る。
フロスト「心配するな。この俺を誰だと思っている」
しっかりと手が握り返された後…
スタッフ「スタンバイお願いします!」
ついにその一声がかけられたのだった…
フロストさんがステージに登場し、スポットライトを浴びると、ひときわ大きな歓声と、黄色い声援が観客席から湧き上がった。
フロスト「皆にこの想いよ届けよう…」
そしてステージは大成功を遂げた…ー。
スタッフ1「フロスト様、お疲れ様です!」
スタッフ2「最高のステージでした!」
スタッフの方たちがフロストさんを囲んでいた。
フロスト「満足のいく出来となった。 力を貸してくれた皆にも礼を言おう」
その後も、スタッフや先生に囲まれてステージの感触を話し合う姿を見ていると…さっきまではすぐ隣にいてくれたフロストさんが、ふと、ひどく遠くに感じた。
(ここから先は…私はやめておこう)
静かに楽屋の扉を閉め、私はステージへと引き返した。
ライブが終わり観客が引いた後も、ステージはまだ熱気に包まれている。
(本当にすごかったな)
ステージ上のフロストさんを思い返していた、その時…ー。
??「おい」
〇〇「っ…!」
ぐっと、腕を強く引かれて立ち止まった。
反射的に振り返ると、少し方を紅潮させたフロストさんの姿がある。
フロスト「なぜ俺の元へ来なかった」
〇〇「あの…それは…」
先程の気持ちを答えきれずに、視線を泳がせてしまう。
すると…
〇〇「っ…!?」
突然、フロストさんの逞しい腕の中に、抱き寄せられていた。
強い抱擁を受けて、一気に心拍数が上がる。
フロスト「何を拗ねている」
〇〇「拗ねてなんて…」
フロスト「嘘を吐くな。お前の考えていることなど分かる」
〇〇「っ…!」
一段と優しい声音が耳に吹き込まれたかと思うと、そのまま唇を重ねられた。
(キス…!?)
唇を通して伝わる彼の熱が、私の頭をくらくらとさせる。
フロスト「馬鹿な奴だ」
唇を話した後、フロストさんは私をさらに胸元へと引き寄せた。
フロスト「どれだけ人から支持を得ようとも、俺の女はお前だけだ。 分かったな」
強い言葉が、私の心に、深く響く。
(うれしい…)
〇〇「はい…すみませんでした」
私を抱きしめる力を弱めながら、フロストさんは改めてステージを眺めた。
フロスト「舞台で堂々としたパフォーマンスを見せると言うのは、王として重要な素養かもしれん。 俺はこの国に来れて良かったと思っている。良い経験となった。 お前にも礼を言いたい」
〇〇「そんな…私は何も」
フロスト「俺が礼を言っている。 素直に受け取れないのか。」
一つ、呆れたようにため息を吐いた後…
フロスト「まあ、今は苦言はやめておこう」
すると、彼の唇が耳元に寄せられて…
フロスト「それに…お前が、このように拗ねる様子も見られた…それも、満足だ」
愉しげな彼の囁きが、鼓膜を甘く震わせる。
○○「っ…は、恥ずかしいです」
フロスト「恥ずかしいなどと意味のないことだ。 先ほども言ったが…お前が思っていることは、全てわかる」
○○「っ…」
(その通り…だよね)
けれどいざはっきり言われると、ますます頬があかくなってしまう。
フロスト「お前も、俺の考えていることを分かるようになれ。そしてこれからも、俺の傍でサポートを続けろ」
○○「え…?」
フロスト「俺はこれからも、雪の一族として高みへ向かう足を止めるつもりはない。 どこまでもついてこい。わかったな?」
その輝く表情が、私の胸をどうしようもなく熱く焦がす。
フロストさんの圧倒的な魅力に誘われるように、気づけば私は頷いてしまっていたのだった…-。
おわり。