第4話 別格の存在

フロストさんが、アイドルになるためのレッスンを始めた初日…-。

一日のレッスンをすべて終え、私達は帰路についていた。

フロスト「それにしても、心地よい疲労感だな」

満ち足りた表情のフロストさんの顔を、夕陽が美しく照らし出す。

○○「お疲れ様です。 フロストさんは…本当にすごいですね」

フロスト「何がだ」

ふと、レッスン中のフロストさんの姿を思い返す。

○○「声も、もちろん容姿も人柄も魅力的だから…ステージに立った時には、たくさんのファンができると思います。 そうしたら…-」

言おうと思った時、ちくりと胸に痛みを感じ、言葉に詰まってしまった。

フロスト「どうした」

眉をひそめ、フロストさんが次の言葉を急かすように私に詰め寄る。

(何を考えてるんだろう、私…フロストさんを慕う人なんて今でもたくさんいるのに。なのに…これ以上沢山ファンができたら、寂しいなんて…)

○○「い、いえ。なんでもないです…」

フロスト「…はっきりしろ」

そう言いながらも、フロストさんはそれ以上追求しようとはしなかった。

柔らかな橙色の夕陽に包まれ廊下を歩きながら、フロストさんとの間に、しばしの沈黙が流れる。

フロスト「…この国へ来てから、アイドルというものの存在をずっと考えている」

先に、再度口を開いたのはフロストさんだった。

フロスト「アイドルには、人の心を奪う何かがある。芸術や芸能ごとを鑑賞することには確かに、
自信を豊かにすることに変わりはないと思うのだが…アイドルはまた別格のようだ」

フロストさんらしい思案に、私の心を占めた寂しさが、少しだけまぎれる。

○○「私も、アイドルのライブは輝いていて素敵だなと思います」

フロスト「…そうだろうな」

○○「えっ…?」

フロスト「ライブを見た時、お前の目は輝いていたからな」

○○「っ…」

(私、そんなにはしゃいでいたかな…少し恥ずかしい)

フロスト「お前にそんな顔をさせるとは…-」

○○「え?」

やや不機嫌そうな声が耳に届き、隣を見上げると…

フロスト「…いや、いい」

私を見つめる深紅の瞳と目が合ったけれど、フロストさんはすぐに前を向いてしまった。

フロスト「しかしこれまで、芸能ごとを行う側になるなど考えもしなかったことだからな。 こういう形で、人に何かを与えることもできるのだと、改めて知る機会となった。 実に有意義だ。この国へ来れたことに感謝しよう」

(フロストさん…)

凛々しい彼の横顔に、私の視線は簡単に奪われてしまう。

(どんなアイドルになるんだろう)

一瞬感じた寂しさはもう消えていて…期待とときめきで、私の胸はドキドキと高鳴るばかりだった…-。

その後、宿泊先の部屋まで送ってくれたフロストさんは、帰り際…

フロスト「明日のレッスンだが、お前もまた見に来い」

○○「え…ー」

フロスト「明日朝、迎えに来る」

私が何か言う前に、フロストさんは颯爽と踵をかえしたのだった…-。

 

 

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