フロスト「せっかくだ。俺も、アイドルとやらに挑戦してみよう」
その強い瞳に魅入られたまま、驚きを隠せずに固まってしまう…-。
(フロストさんが…アイドルに!?)
決意を秘めた深紅の瞳を輝かせて、フロストさんは私を見つめ返した。
フロスト「あれほど客を熱狂させるものがアイドルにはある。 それは国民を導く、王族にも必要な要素の一つではないだろうか」
○○「な…なるほど」
すると、フロストさんはふと訝しげな顔になって…
フロスト「…なんだ、その顔は。 俺がアイドルになることに不服でもあるのか」
○○「い、いえ、そういう訳じゃ…ただ、すごく意外だったので驚いてしまって」
フロスト「意外だと…?」
フロストさんは一拍の間の後、口角を不敵に上げた。
端正な顔に浮かんだ挑戦的な笑みに、どきりとする。
フロスト「意外だというのなら、なおのこと挑戦してみなければな。あの案内係の男も、俺がステージに立てば華があると言っていた」
(なんだかますます乗り気に…?)
○○「…意外だけど、すごく似合うような気がします。楽しみです!」
フロスト「そうか。では、期待を裏切らないようにしなければな。 では、話せ。お前が知っているアイドルのすべてを」
そして私達はしばらく、アイドル談議に夢中になったのだった…-。
翌日…
アイドルになることを決意したフロストさんは、早速レッスンを受けるよう手続きを進めていた。
(さすが、フロストさん…)
私も、せっかくなので見学させてもらっていると…
案内係「お待たせしました。 今日は早速、ボイストレーニングの先生をお連れしています」
フロスト「歌の練習からか」
昨日から案内をしてくれている男性が、先生を連れてレッスン場に入ってきた。
先生「フロスト王子のトレーニングとは私も緊張しますが…これからよろしくお願いします」
フロスト「ああ。よろしく頼む」
先生「では、まずはストレッチをして、体の奥からしっかりと声が出るようにしましょう。体をほぐし柔軟性を持たせることで、声は力を持ちやすくなり、また、腹筋や背筋等体力をつけることで、大きく伸びる声が出るようにもなります」
フロスト「ほう…なるほど」
何もかもが完璧で、いつも自信に満ちているフロストさんだけれど…謙虚に教えを受ける姿勢を
目の当たりにして、感心してしまった。
(フロストさんって、すごいな)
やがてストレッチも終わり、実際の発声練習が始まる。
(わ…素敵な声…!)
低いながらも美しい声が、耳に柔らかく響いてくる。
よく通る声はとても心地が良くて、それにすごく魅力的だった。
先生「うん、音程はばっちりですね」
フロスト「指導がいいのだろう。礼を言う」
先生「では一旦休憩を挟みましょう」
フロストさんが髪を掻き上げながらこちらを見る。
私はドキリとして、
○○「っ…」
思わず、さっと目を逸らしてしまった。
フロスト「…どうした」
すると私の視線を戻すかのように、フロストさんの声が追いかけてきて…
フロスト「やたらと視線を感じるのだが」
○○「っ…ごめんなさい。 あまり見ていると、練習しづらいですよね」
フロスト「何を言っている。そんなことで俺が動揺するはずがないだろう」
フロストさんの額や首筋にうっすらと浮かぶ汗がなんだか魅力的で、鼓動が速まってしまう。
○○「とても熱心だし…それに、すごく素敵な声だなと思っていたんです」
そう言うと…フロストさんがふっと、満足そうな笑みを浮かべた。
フロスト「歌声、か。こればかりは生まれ持ったものだからな。 父と母に感謝するとしよう」
知れば知るほど魅力を発揮するフロストさんに、引き込まれずにいられないのだった…-。