フロスト「…そうか。 では、ついてこい」
威風堂々とした立派な背中を追いかけ、私も慌てて歩き出す。
○○「あの、どちらへ行かれるんですか?」
と問いかけると、フロストさんはちらりと私を振り返った。
フロスト「この国で行われているアイドルのライブを見に行く」
○○「えっ?」
フロスト「お前はアイドルというものを知っているのだろう」
なぜか不機嫌そうに、フロストさんは私に言い放つ。
フロスト「まさか、お前がアイドルを知っていたとは驚いた。少々不愉快だが、教えを乞うことにする」
○○「教えって…」
フロスト「来い」
フロストさんは私の手を引き、ライブ会場へとためらいなく向かっていった…-。
会場に到着すると、城内はすでに大勢の女性客でひしめいており、大変な熱気で溢れかえっていた。
フロスト「…っ! なんだ、これは…」
会場に足を踏み入れた途端、フロストさんの深紅の瞳が見開かれる。
(すごい人…)
二人で会場の熱気に飲まれてしまっていると、案内係の男性が説明を始めてくれた。
案内係「本日は、複数の男性グループアイドルが登場するイベントライブになっています。 なので、女性のお客様が多くなっていますね」
フロスト「…それはつまり、女性アイドルになれば男性客が多くなるということか?」
案内係「え…?は、はい。そうですね」
フロスト「ふむ。では…-」
フロストさんは真剣な表情で、案内係の人に質問を投げかけていた…-。
その後、フロストさんと一緒に招待席に案内され席に着いた。
フロスト「…」
フロストさんは、睨むようにステージを見据えている。
それからしばらくして、一度照明が落ちたかと思えば…-。
アイドル1「今日もどうぞよろしくー!!!」
明るい声が場内に大きく鳴り響いた。
きゃあっと黄色い歓声が沸き上がり、それからすぐに音楽が流れ出す。
フロスト「なんという熱気だ…」
大歓声に掻き消されかけたフロストさんの声が、わずかに耳に届く。
そして、まばゆいスポットライトと共にアイドル達が壇上に現れた瞬間…観客が総立ちになってさらなる大歓声を上げた。
フロスト「っ…!」
色とりどりの照明に、明るい笑顔をふりまき歌とダンスを始めるアイドル…それに、完全に総立ちになった女性客の驚くほどの熱気…
(すごい…!)
フロスト「…」
隣を見ると、フロストさんは難しい顔のままじっとステージを見つめていて…
○○「フロストさん、大丈夫ですか?」
フロスト「…問題ない」
フロストさんは視線をステージに向けたまま、軽く頷いた。
フロスト「…。 この照明と音楽…それに踊りの組み合わせはどうやって実現しているんだ」
険しい顔でステージを見ていたフロストさんが、感心したように言う。
○○「入念な打ち合わせと、練習と…あと、センスも必要そうですね」
フロスト「技術力も必要だ。 しかし、観客は少しも落ち着かず、立ち上がって、演者に対して失礼だろう」
○○「これは、アイドルと一体になるというか…喜びとか、応援の表現なんです」
フロスト「…なるほど。では、あのライトを勢いよく振るのはなぜだ? 色がさまざま変わって…」
それからも、フロストさんの真面目な質問が続いた…-。
ライブ終了後…
まだどこか熱気を残したような会場を後にして、フロストさんと歩く。
フロスト「…」
フロストさんはライブが終わった時からずっと、何やら考え事をしていて…
(どうしたんだろう? 衝撃的…だったのかな)
○○「あの…-」
声をかけた、その時だった。
フロント「せっかくだ。俺も、アイドルとやらに挑戦してみよう」
○○「え…?」
突然の言葉に驚き、思わず勢いよくフロストさんの顔を見てしまった…-。