月最終話 お前達を、笑顔に

私とシュニー君は、スカウトの方に連れられて広場までやってきた。

辺りには楽しげな音楽が流れ、人だかりができている。

シュニー「あれは……路上ライブ?」

人だかりの真ん中に、元気よく踊る男の子達の姿がある。

スカウト「〇〇さん」

〇〇「はい」

スカウト「シュニ―君とあのアイドル達の違い、君にはわかるかい?」

〇〇「違い……ですか?」

スカウト「そう。ずっとシュニ―君の練習を見てきた君ならわかるんじゃないかな?」

そう言われて、改めて路上ライブに視線を向ける。

伸びやかな歌、リズミカルなダンス、そして弾けんばかりの笑顔……

〇〇「あ……もしかして、笑顔ですか?」

スカウト「そう! その通り! 笑顔は笑顔を生む。笑顔の連鎖が、明るい世界を創る。 歌やダンスが上手いことも重要だ。でも、それだけじゃない。 アイドルにとって最も大切なものは、笑顔なんだよ」

シュニー「笑顔……。 ……不思議だな。そんなの意味わかんないって思ってたのに。 たくさん練習を重ねてきた今ならわかるような気がする……」

シュニ―君は小さくつぶやくと、弾ける笑顔で歌い踊るアイドル達をじっと見つめる。

そんな彼の姿に、スカウトメールが満足げに頷いていた。

……

そして、いよいよ本番当日…-。

スカウトの方から最前列の席へと案内された私は、じっとその瞬間を待っていた。

(シュニー君……)

心の中で彼の名前をつぶやくと同時に、前のステージが終わる。

すると、照明が落とされて…-。

シュニー「さあ、始めるよ!」

シュニー君の声と同時に、ステージライトがまぶしい輝きを放った。

シュニー「今日は来てくれてありがとう。 仕方ないからお礼に、僕のダンスと歌を披露してあげるよ!」

口調こそ、いつものシュニー君と変わらない。

けれどそこにあったのは、弾けんばかりの笑顔を見せる彼の姿……

スチル(ネタバレ注意)

(素敵……)

透き通った歌声や、キレのあるダンス。そして、まぶしい笑顔……

観客1「かわいい~!」

観客2「ううん、格好いいよ!! あの明るい笑顔、いいな!」

お客さん達は皆、とても楽しそうに体を動かしている。

シュニー「今夜はまだ終わらないから。 僕のステージで楽しんでいってよね!」

ステージ上のシュニ―君は、心から楽しそうに笑っていて……

(シュニ―君の笑顔が咲かせた、笑顔……)

シュニ―君を見つめる人々も、彼につられるように満面の笑みを浮かべていた…-。

ステージが終わった後、私は舞台袖のシュニ―君の元へと駆けつけた。

〇〇「シュニ―君、お疲れ様!」

声をかけると、シュニ―君は手の甲で汗をぬぐいながら振り返る。

シュニー「ああ、〇〇」

その表情には、やり遂げた満足感が浮かんでいた。

〇〇「ステージ、すごかったです! お客さんも皆喜んでて……。 私も、あんなに楽しい時間を過ごしたのは久しぶりでした!」

シュニー「うん、見えてたよ。楽しそうに笑うお前の姿。 お前だけじゃなくて……他の客も皆、笑ってた」

〇〇「はい……シュニ―君が、素敵な笑顔だったからです」

シュニー「そっか……」

さっきの時間を噛みしめるように、シュニ―君は息を吐いた。

シュニー「……アイドルって、自分の笑顔で本当に人を笑顔にできるんだね。 悪くないなって、思ったよ。 国に帰ったら……国民の前で、笑ってやってもいいかもしれない」

〇〇「はい! 皆さん、きっと喜びます!」

シュニー「……でも」

そう言いかけたところで、シュニ―君の頬がほんのりと赤く染まる。

そして……

シュニー「……僕が、一番見たいのは……」

〇〇「え……?」

両手を腰にあてて、顔を赤くしたシュニ―君が私の顔を見上げてくる。

シュニー「僕が一番見たいのは、お前の笑顔なの! さっきお前は、僕の笑顔が素敵だったって言ってたけど。 たぶん、それって……お前の笑顔を思い浮かべてたからで……」

〇〇「シュニ―君……」

シュニ―君の言葉のひとつひとつが嬉しくて、気づけば私は微笑んでいた。

シュニー「うん、そう。そうやっていつまでも、僕の傍で笑っていてよね」

お互いの笑顔が生み出す、幸せな連鎖…-。

〇〇「はい。ずっと、シュニ―君の傍に……」

私が笑顔で頷くと、シュニ―君はこの上なく嬉しそうに笑ったのだった…-。

 

 

おわり。

 

<<月5話