○○と一緒に、プロジェクションマッピングのショーを見にきた時…―。
○○「綺麗……」
オープニングを飾る花火が上がらないというトラブルに見舞われたものの、急遽予定を変更してクライマックスに打ち上げられた花火は、無事成功を収め……
(喜んでもらえて、本当に嬉しい)
彼女は、夜空に咲いた花火をうっとりとした表情で見つめている。
テル「……よかった、無事に上がって。これでようやく俺の描いていた形になる」
(だが……)
(結局、君には最高の形で見せてあげられなかった)
(誰よりも、君を楽しませたかったのに……)
自責の念に押し潰されそうになった俺は、たまらずに彼女の体を抱きしめる。
テル「ごめん……」
○○「……? どうして謝るんですか?」
(どうしてもこうしてもない。だって……)
テル「本当なら君には正面から見せてあげたかったから。 それがトラブルに巻き込んだうえ、こんな舞台裏からなんて……。 ……一番大切な人に、感動を与えられなかった」
(後悔しても、し切れない……)
自責の念が、どんどんと膨れ上がっていく。
けれど…―。
○○「謝らないでください。私、心から感動していますし……。 それに、ショーを作り上げる側に混ざれて嬉しかったです」
彼女は俺を責めるどころか、優しい言葉をかけてくれる。
テル「え……? 君は、嬉しいと言ってくれるのかい?」
○○「はい。テルさんが、どんな目線でものを作り上げるのか……。 どんなふうに頑張っているのか、ほんの少しだけわかったような気がして……」
(○○……)
彼女の言葉が、少しずつ心に染み込んでいく。
(そんなこと……考えてもみなかったな)
(ただ俺は、君に自分の作った作品をみてもらいたいという一心で……)
テル「……○○」
○○「テルさん……?」
彼女の瞳を、まっすぐに見つめる。
(君に、もっと触れたい)
(宝物のような言葉をくれた君に)
(王子でもなく映画監督でもない、ただ一人の男として……)
テル「……ごめん、君を見ていたら抑えが利かなくなって」
気づけば、強い願いは言葉へと変わっていた。
そして……
○○「え…―」
吸い寄せられるように、俺は○○の唇に自分の唇を重ねた。
○○「……っ」
彼女の綺麗な心に、そっと優しく触れるような淡いキス…―。
(○○……)
心の中が彼女で満たされ、花火の音も映像の光も、どこか遠くのことに感じられる。
そうして、少しの後……
テル「本当は俺なりに……ロマンティックに過ごせるように計画していたんだけど……。 すまない。こういうことには慣れていなくて……」
名残惜しさを感じながらも唇を離した俺は、彼女への謝罪の言葉を述べる。
だけど……
○○「充分、ロマンティックです……」
(……やっぱり、君はどこまでも優しいな)
(そんな君を、俺は……)
想いを込めながら、○○の体をぎゅっと抱きしめる。
テル「ありがとう。これは監督業やパークの総指揮者としてじゃなく、俺個人の気持ちだよ。 君と今日この時を一緒に過ごせてよかった……」
辺りに、ひときわ大きな花火の音が響く。
すると彼女は、俺の耳元へと顔を寄せ……
○○「私もです。 テルさんがくれたこの景色も、さっきの言葉も……。 一生、忘れませんから」
テル「……!!」
不意に、頬に柔らかな感触が訪れる。
思わず目を見開くと、キスをくれた彼女は恥ずかしそうにはにかんでいて……
テル「あ、ありがとう。その……。 ……参ったな。こんな時、どう振る舞えばいいものか……。 でも、こんな俺でよかったら……これからはずっと、同じ時を過ごせればと思う」
○○「……はい」
控えめな返事の後、彼女がじっと俺を見上げる。
すると、その長いまつげがゆっくりと伏せられ……
テル「……」
俺は再び、彼女の唇へと吸い寄せられるように口づけを落としたのだった…―。
おわり。