予備の花火を倉庫で手に入れた私達が、打ち上げ現場に戻ってくると…―。
テル「皆、すぐにこれをセットしてくれ!」
打ち上げスタッフ「はい!!」
花火を受け取ったスタッフさん達が大急ぎで持ち場に着く。
○○「大丈夫でしょうか……?」
不安になってテルさんに尋ねると、彼は難しい顔をしていた。
テル「突然のプログラム変更だ。何があってもおかしくない。 だが……大丈夫だ。彼らは今まで一緒に頑張ってきた仲間だからね。 絶対にやり切ってくれる。俺が保証するよ」
○○「テルさん……」
その時、現場の責任者の方がテルさんの元にやって来た。
打ち上げ責任者「変更後の確認よし! 点火装置よし! テル監督、行けます!!」
テル「よし! では、クライマックスに合わせて打ち上げてくれ!」
打ち上げ責任者「はい!」
打ち上げ現場は危険が伴うため、私とテルさんはひとまずその場を離れた。
すると…―。
○○「……!」
空に長い光の筋が浮かんだと思った次の瞬間、大きな破裂音が響き……
○○「綺麗……」
テル「ああ……」
幻想的なプロジェクションマッピングと美しい花火が織りなす光景に、観客達から大きな歓声が上がる。
その様子を、私はテルさんと並んで見つめていた。
テル「……よかった、無事に上がって。これでようやく俺の思い描いていた形になる。 演技じゃない、リアルな感動。人の歓び……そして驚き……。 ……」
○○「テルさん?」
よかったと言いつつも、彼の表情は少しだけ悔しそうに見える。
(やっぱり、心残りがあるのかな……)
そう思って、テルさんの顔をおずおずと覗き込むと…―。
○○「……っ!」
突然、彼が私を強く抱きしめた。
テル「ごめん……」
○○「……? どうしてテルさんが謝るんですか?」
テル「……」
腕に中からテルさんを見上げると、彼は唇を噛んで私から視線を外す。
テル「本当なら君には正面から見せてあげたかったから。 それがトラブルに巻き込んだうえ、こんな舞台裏からなんて……。 ……一番大切な人に、感動を与えられなかった」
レンズ越しに見える目元には微かに皺が寄っている。
(そんなこと……)
○○「謝らないでください。私、心から感動していますし……。 それに、ショーを作り上げる側に混ざれて嬉しかったです」
テル「え……君は嬉しいと言ってくれるのかい?」
○○「はい。テルさんが、どんな目線でものを作り上げるのか……。 どんなふうに頑張っているのか、ほんの少しだけわかったような気がして……」
私が素直な気持ちを口にすると、彼は驚いたような表情を浮かべる。
けれど、一瞬の後……
テル「……○○」
○○「テルさん……?」
至近距離でまっすぐに見つめられ、鼓動が早くなる。
テル「……ごめん、君を見ていたら抑えが利かなくなって」
○○「え…―」
次の瞬間、彼の唇が私の唇に触れた。
(テル、さん……)
ただ淡く重なるだけの、優しいキス…―。
そのまま時間が止まってしまったかのように、私は動けなくなる。
○○「……っ」
ややあって、彼の唇が少しずつ遠ざかっていった。
テル「本当は俺なりに……ロマンティックに過ごせるように計画していたんだけど……。 すまない。こういうことには慣れていなくて……」
(テルさん……)
私は、囁くように言葉を紡ぐ彼の背中に腕を回した。
○○「充分、ロマンティックです……」
そう伝えると、テルさんは私の体をさらに強く抱きしめる。
テル「ありがとう。これは監督業やパークの総指揮者としてじゃなくて、俺個人の気持ちだよ。 君と今日この時を一緒に過ごせてよかった……」
柔らかな声が、花火の音に掻き消される。
けれどテルさんがくれた言葉達は、彼が作り上げた美しい景色と共に……
私の心へと、深く刻み込まれたのだった…―。
おわり。