ビートン・フィルムパークに招待されてから、数日後…―。
○○「テルさん、紅茶が入りました」
テル「ありがとう」
テルさんは映像の編集を続けながらこちらを見ずに紅茶を受け取る。
私が仕事の手伝いをしたいと言ったあの日以来、彼はこうしてスタジオにこもることが多くなった。
(ずっと集中してるけど、いったいなんの映像なんだろう?)
○○「これって、パークで使う映像ですか?」
テル「ああ。プレオープンまで日がないけど、ぎりぎりまでクオリティを上げたくてね」
テルさんは譜面のような画面を操作して、映像の調整をしている。
(いったい、どこで使う映像なんだろう……?)
パーク内に設置されたアトラクションや巨大モニターを思い返し、私は再び首を傾げる。
すると……
テル「……ごめん。今はまだ教えられない。悪く思わないで欲しい。 でもこの国の歴史が一目でわかるものにしたいんだ。それも華やかで楽しいもの……。 そうだ! あの時のフィルムも使えそうだな」
テルさんはそう言うなり作業に没頭し始め……
少しの後、勢いよく席を立ったかと思うと小型ビデオカメラを手にして戻ってきた。
○○「何か撮るんですか?」
テル「ああ、いいことを思いついたんだ! この映像を目にした人々の、生の感情を映像に残そうと思って。 演技じゃない、リアルな感動。人の歓び……そして驚き……それらを俺は残したい。 俺がこの映像に込めた思いを、受け取ってくれた人々の姿を……!」
(映像に込めた、思い……?)
力強く語る彼の表情からは、連日の作業による疲れはあまり感じられない。
○○「すごく素敵ですね」
テル「ありがとう! 君にそう言ってもらえてすごく嬉しい」
いつもとは違う無邪気な笑みに、胸が大きく高鳴る。
テル「そうと決まったら、早速プランを考えないとな。 でもその前に……」
○○「……?」
彼は部屋の隅にあるソファーに移動すると、ゆっくりと腰をかけた。
テル「さすがに少し限界だな……30分だけ寝るから、時間がきたら起こしてくれないか?」
○○「はい」
ここ数日の間、何度か同じやり取りをしていた私は、ごく自然にテルさんの隣に腰を下ろし、目をつむった彼を見つめる。
(……もう寝てる。よっぽど疲れてたんだ)
寝息を立てるテルさんの前髪に、そっと手を伸ばす。
その時…―。
テル「ん……」
テルさんの頭が私の肩に乗り、紫色の髪が首をくすぐったかと思うと……
○○「……!」
彼の脱力した体は、ずるずると倒れ込み……
その結果、彼に膝枕をする形になってしまった。
(ど、どうしよう……)
恥ずかしさからわずかに身じろぐものの、テルさんは一向に起きる気配がなく安らかな寝息を立てて眠り続けている。
○○「テルさん……」
彼を見ている内に、私の心も徐々に落ち着きを取り戻して……
(おやすみなさい、テルさん……)
少しくすぐったい気持ちを覚えながら、私は彼の頭をそっと撫でたのだった…―。