謎解きアトラクションを挑み、ゴールを目前に控えた時…―。
(っく……どうしてこんなことに……!)
あろうことか、○○とはぐれてしまった。
(もっとしっかり離れないように気をつけてなければならなかったんだ)
(それなのに、俺としたことが……)
今頃、アトラクションの洞窟の中で、○○が怯えているかと思えば、居ても立ってもいられない気持ちになってしまう。
(このままでは駄目だ!)
(……しっかりしろ!一刻も早く、ここから脱出して○○を迎えに行く)
動揺のせいか、いつもより上手くまとまらない思考をどうにか回転させて、先へ進むことにした。
…
……
アトラクション脱出に成功し、出口付近をくまなく探す。
(いない……)
○○の姿は、どこにもなかった。
(それはそうか……)
すぐに、これからのことを考える。
(このまま脱出を待つべきか、どこにいるかはわからないが迎えに走るべきか)
心細い思いをさせていると思うと、胸が張り裂けそうになる。
(やはり迎えに……いや、けれどすれ違いになっては…―)
(ヒントは渡しはしたが、万が一解けなかったら? 不可解な事件に巻き込まれたら……)
(どうする!?)
ぐるぐると、思考を巡らせていると…―。
洞窟が、ゴゴゴと音を立てた。
そして…―。
グレアム「○○!」
○○「っ……!?」
閉じていた洞窟の出口が開き、そこに探し求めていた○○が立っていた。
その姿を視界に入れた瞬間、込み上げる感情を我慢できず……
彼女へ走り寄り、気がつけばきつく抱きしめていた。
グレアム「どうなることかと心配したよ! だけど、二人とも脱出できて本当によかった」
腕の中に包み込んだ確かなぬくもりと感触に、感情が溢れ出して止まらない。
○○「アトラクションなのに……本当に焦っちゃいました」
やはり不安だったのだろう、彼女は俺の胸に顔を預けてくる。
グレアム「それはそうだろう……なんたって俺の作品のアトラクション、臨場感には拘っている。 だからこそ……お前のことが心配で」
(俺はいったいどうしたんだ……)
(ただのアトラクションで、たった数分離れていただけなのに……!)
こんなに大げさにする必要などないことがわかっているのに、気持ちを制御することができない。
彼女を離すことができずにいると……
○○「ちゃんと脱出できたから、これでグレアム君の書き下ろしが読めますよね」
俺の腕の中で○○が静かに声を発した。
グレアム「もちろんだよ。 それより……怖くなかった?」
○○「それは……」
(やっぱり……怖い思いをしたんだな)
彼女の無事に安堵を覚えていたけれど、次第に情けなさが胸を占め始める。
グレアム「最後の最後で、守ってあげられなくてごめん……」
○○「いいえ。グレアム君のキャンディーのおかげで脱出することができたんですよ。 だから……グレアム君に、守ってもらったようなもので…―」
グレアム「本当……?」
それでもまだ気持ちが落ち着かず、俺はゆっくりと彼女の体を離した。
自分が不甲斐なくて、なかなか顔を上げることができない。
○○「……本当です。 最後、パズルが解けなくて……あそこでグレアム君のキャンディーがなければ無理でした」
(よかった……)
グレアム「じゃあ……」
視線を上げると、○○の笑顔が見えた。
それにつられて、次第に俺の口角も上がってくる。
(さっきから、変だ)
(こんなにも、鼓動が速まってしまうとは……)
そのことに気づかれてしまわないよう、俺はなんとか言葉を紡ぐ。
グレアム「ここまでヒントを出さなくともと思ったけれど、そのおかげでこうして喜びの再会ができたということだね」
○○「はい、その通りです」
○○がしっかりと頷いた瞬間、やはり堪らずに胸が熱くなって……
気がつけばまた、きつく彼女の体を抱きしめていた。
○○「っ……!」
グレアム「謎解きアトラクション成功だ!」
叫んだ声の理由は喜びばかりではない。
この胸の高鳴りと彼女への熱く不可思議な感情を誤魔化すためだった。
(こんなふうに、俺が女性に好意を抱いてしまうとは)
(その過程では、どんな謎解きよりもミステリアスで……魅力的なんだな)
そんなことを考える俺の背に、○○の手がおずおずと回される。
きっと、俺の鼓動の高鳴りは彼女にバレていることだろう。
(これじゃなんのミステリーにもならないな)
(けど、もはやトリックもミスリードも必要ない……)
ただ、腕に閉じ込めた○○が愛しくて仕方がなかった…―。
おわり。