映画の国・ケナル 彩の月…―。
目の前にそびえ立つ巨大テーマパークの前で、私は受け取った招待状を握りしめる。
(なんて大きなテーマパーク……)
招待状は、映画の国の連合組合であるビオスコープからのもので、新しいテーマパーク『ビートン・フィルムパーク』プレオープンへの誘いだった。
(今来てるのは招待客だけのはずなのに、すごく賑わってる)
胸を弾ませながら、華やかなエントランスをくぐると…―。
司会「それでは、本日のプレオープン開会式にお越しいただきました……。 文壇の国・ミステリアムのグレアム王子にご登壇をお願いしたいと思います!」
○○「えっ……?」
見ると、少し離れたところにあるステージに人が集まっていた。
(あれは……グレアム君!)
百年に一度の天才ミステリー作家、文壇の国の王子グレアム君がその壇上に悠然と立っていた。
(来てたんだ!)
大勢の人混みを掻き分けるようにして先に進み、ステージが見える位置まで移動する。
すると……
グレアム「えー……今回のアトラクションの元となった映画は、俺の小説が原作である『水晶宮からの招待状』だ。 映画もアトラクションも、かの有名なテル・ビートン氏が製作総指揮を取ってるからな……。 臨場感に溢れるアトラクションとなっているはずだ。是非楽しんでいただきたい」
舞台上で堂々とした立ち姿と言葉を披露するグレアム君が、印象深く目に飛び込んできた。
(久しぶりに会えて、嬉しいな)
時折、得意気に眼鏡をかけ直すグレアム君を微笑ましく思いながら、私はスピーチを見守っていた…―。
…
……
その後…-。
(あ、いた! グレアム君)
スピーチが終わり、すぐにグレアム君に駆け寄って名前を呼ぼうとしたけれど……
グレアム「……ふむ……そうか」
グレアム君は、パークのスタッフらしき人達と、何やら厳しい表情で話をしていた。
(話しかけない方がいいのかな……?)
深刻な様子に二の足を踏んでしまっていると…―。
グレアム「っ……!?」
グレアム君が私に気づき、目を見開いていた。
○○「あ……グレアム君、こんにちは。何かあったんですか?」
グレアム「なっ……どうして……」
慌てた様子を見せるものの、コホンと咳払いを一つして…―。
グレアム「……驚いた。お前も来ていたんだ。偶然だね」
グレアム君は頬を微かに染めながら、何やら難しいことをぶつぶつとつぶやいている。
グレアム「いや、世の中に偶然などは存在しない。真実は、すべて必然……」
(ふふっ、グレアム君相変わらずだな)
そう思ったのも束の間のことだった。
すぐに、グレアム君の顔が先ほどまでと同じく厳しいものになる。
グレアム「っと、こんな無駄話をしている場合じゃなかった。 残念ながら事件発生だ……!」
グレアム君の凛とした声が、賑わうテーマパークの喧騒に落とされたのだった…―。