魔術の祭典、当日…-。
控え室から窓の外を眺めていると、闘技場にはたくさんの人達が集まっていた。
(あそこで、新しい魔術を……)
(……イリアはどんな技を披露するのかな?)
オレは、微かに震える拳を握りしめる。
ミヤ「……ああ、駄目だ駄目だ! しっかりしろ、オレ!」
気合を入れ直すものの、不安が後から後から溢れてきて……
オレは再び、じっと窓の外を見つめた。
すると…-。
〇〇「……ミヤ?」
優しい声が耳に届く。
ミヤ「あっ、〇〇ちゃん……」
(オレを心配して来てくれたのかな。でも……)
ミヤ「結局、練習で一度も成功することができなかったんだ。 だから、少し弱気になっちゃって……情けないね、オレ」
(キミの前で、格好つけることすらできないなんて……)
うまく不安を隠すことができず、自己嫌悪に陥る。
だけど……
〇〇「魔術書がぼろぼろになるくらい、ミヤは一生懸命練習したんだよね」
(えっ……)
〇〇「だから、もっと自分に自信を持って」
ミヤ「……〇〇ちゃん」
(そうか……)
手にした魔術書を見ると、練習の日々が脳裏に蘇ってくる。
(これはオレが頑張った……歯を食いしばって努力した、何よりの証なんだ)
自然と勇気が湧いてくる…-。
ミヤ「……そうだよね。ルーガも見に来てくれてるし、オレ頑張るよ!」
(……キミは、いつもオレに勇気をくれる)
(オレはそれを無駄にしたくない)
(今日こそ〇〇ちゃんに格好いい姿を見せれるように……オレ、頑張るよ!)
そう、強く心に思ったものの…-。
…
……
イリアが魔術を披露すると、観客席から割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がった。
ミヤ「すげーな、イリア……」
(やばい……こんなの、勝てる気がしないよ)
圧倒的な魔術を前に、一度は消えたはずの不安が溢れてくる。
ミヤ「オレ、そろそろ行かないと」
大きな拍手がやまない中、オレは闘技場へと向かう。
〇〇「ミヤ、頑張って!」
背中から、〇〇ちゃんの声が聞こえてくる。
その声は、拍手に負けないくらい大きくて…-。
(〇〇ちゃん……)
(……勝つ。絶対に、イリアには負けない!)
オレは彼女に手を振り、舞台へと向かった。
だけど…-。
…
……
手から上がった火の玉が空で弾け、空に大きな花が咲く。
しかし、それはすぐに爆発へと変わってしまった。
ミヤ「……!」
(やばい……!)
今にも暴走しそうな術を、オレは必死に抑え込む。
(ごめん、〇〇ちゃん……せっかくキミが勇気をくれたのに)
ミヤ「……っ」
(ルーガ、約束したのに……ごめんね)
その時だった。
ミヤ「……!」
爆発は空に上がった水しぶきによって抑えられ、7色の花火が水と遊ぶように跳ねては消えていく。
(水……? これって、イリアの……)
(イリアが、オレを助けてくれた……?)
空に上がる幻想的な光景に、観客達から歓声が上がる。
(……悔しいけど、オレの負けだな)
(イリアに負けないくらい格好よくって思っていたけど……)
舞台を降りると、オレはすぐに〇〇ちゃんの元へと走った。
そして……
ミヤ「やっぱり格好いいな、イリアは……」
心配そうにこちらの様子を伺う〇〇ちゃんの前で、オレは恥ずかしさを隠すように髪を掻き上げる。
ミヤ「オレ、イリアのこと意識し過ぎてたんだなー。 どっちの魔術がすごいとか、そういう問題じゃないのにね。 まあ、どっちにしろ〇〇ちゃんに格好いいところ見せられなかったけど」
〇〇「……格好いいと思う」
ミヤ「えっ……」
予想外の言葉に、オレは思わず目を見開いた。
〇〇「イリアさんのこと、格好いいって言えるミヤ……格好いいと思うよ。 それに、二人で完成させた魔術、すごく素敵だった」
ミヤ「〇〇ちゃん……」
オレは、〇〇ちゃんの手をぎゅっと握りしめる。
〇〇「えっ……?」
(キミは、いつも優しい言葉で、オレを包み込んでくれるんだ)
(オレは、そんなキミのことが……)
ミヤ「今度は、格好いい姿を見せたい! いや、絶対にみせるから! だから……待っていてくれるかな?」
(今のままじゃ、キミは絶対にイリアのことを好きになっちゃうと思う)
(だけど、それは嫌だ! 絶対に嫌だ!)
(キミだけは……イリアにも、他のどんな男にも譲れない)
オレは〇〇ちゃんの答えを静かに待ち続ける。
うるさいぐらいに高鳴る鼓動を、必死に抑えながら…-。
おわり。