私とミヤが魔術の練習をしに来ると、森の奥からルーガ君の叫び声が聞こえてきた。
叫び声がした方へ向かうと…―。
○○「……!」
ルーガ君の目の前には、巨大な火の玉が浮かび上がっていた。
するとその火の玉が、突然ルーガ君に襲いかかり……
(危ない……っ!)
ミヤ「ルーガ!」
ミヤはすぐさま呪文を唱えると、火の玉はすっと消えていった。
○○「ルーガ君、大丈夫!?」
しばらく放心状態だったけれど、私とミヤが駆け寄ると、ルーガ君は堰を切ったように泣き始めた。
ミヤ「怖かったよな、もう大丈夫だから」
ミヤはルーガ君を抱き寄せて、優しく背中をさする。
ふと視線を落とすと、ルーガ君の足元には魔術書が転がっていた。
(もしかして、さっきの火の玉って……)
ミヤは魔術書を拾い上げて、ルーガ君に渡す。
ミヤ「偉いな、ルーガ。魔術の練習をしていたんだね」
ルーガ「……うん。モーガみたいに優秀じゃないから、いっぱい練習しなきゃいけないけど……」
(ルーガ……)
ルーガ「でも、やっぱり無理かな……」
ルーガ君は、小さな肩を震わせている。
ミヤ「そんなことないよ」
ミヤは、ルーガ君の目をまっすぐに見つめる。
ミヤ「一生懸命練習すれば、きっとできるようになるよ」
ルーガ「ミヤ様……」
ミヤ「オレも、今度の祭典で難しい魔術を披露しようと思っているんだ。だから、たくさん練習しないと」
ルーガ「ミヤ様も、たくさん練習するの?」
ミヤ「ああ、まだ失敗ばっかりだけどね。成功するように頑張るよ。 だから、ルーガも頑張ろう!」
ルーガ君の表情が、ぱっと明るくなった。
ルーガ「ぼく、頑張る! 魔術を覚えたら、ミヤ様とお姉ちゃんに見せるね!」
○○「うん、楽しみにしてるね」
ルーガ君は、魔術書を大切そうに抱えて走り去っていく。
しかし、すぐに踵を返して戻ってきた。
(どうしたのかな?)
ルーガ「あのね……モーガと比べられることは嫌だけど、モーガのことは好きだよ」
ルーガ君は照れ臭そうにつぶやく。
ミヤ「ああ、わかってるよ。オレも……イリアのことが好きだから」
ミヤもルーガ君に負けないくらい照れ臭そうにつぶやいた。
(ミヤ……)
ルーガ君はにっこりと笑うと、元気に両手を振りながら走り去っていった。
ミヤ「よしっ、ルーガのためにも魔術を成功させないと!」
気合を入れるように頬を叩くと、ミヤは私の方をちらっと見た。
(どうしたのかな?)
○○「どうしたの?」
ミヤ「いや、あの、その……」
ミヤは耳まで赤くなって、しどろもどろになり……
呼吸を整えてから少しの後、彼は意を決した表情をした。
ミヤ「あのさ、○○ちゃん……頑張ってって、いってくれるかな? ○○ちゃんが応援してくれると、もっと頑張れる気がするんだ」
消え入りそうな声に、愛しさが込み上げてくる。
○○「……ミヤ、頑張って! ミヤなら、きっと大丈夫だよ」
ミヤ「……よしっ、オレ頑張るよ!」
ミヤの笑顔が、きらきらと輝く。
その笑顔を、私はずっと見つめていたいと思った。