広い場所で魔術の練習をするために、私とミヤは森へと向かうことにした。
その途中で、市街地を通っていると…―。
男性1「あっ、ミヤ様!」
女性1「ミヤ様、どこへ行かれるんですか?」
ミヤの周りは、あっという間に街の人達でいっぱいになった。
ミヤ「うん、ちょっと森に行こうかなって思って」
男性2「ミヤ様は、祭典でどのような魔術を披露されるんですか?」
街の人達の最近の話題は、もっぱら魔術の祭典についてらしい。
ミヤ「それは、当日までのお楽しみかな」
私をちらりと見て、ミヤがウインクをする。
(驚かせるためにも、まだ秘密なんだよね)
ミヤの言葉に、街の人々が少しだけ残念そうな表情を浮かべる。
けれど……
女性2「……イリア様の魔術は、きっとすごいんだろうなぁ」
男性2「イリア様なら、想像以上のことをしてくださるだろうしね! 本当に楽しみだな」
街の人々の話題は一気にイリアさんに移り、誰もが彼の魔術に大きな期待を寄せているようだった。
ミヤ「……」
(ミヤ……?)
イリアさんの話題で盛り上がる街の人々を、ミヤが複雑そうな表情で見つめている。
(ミヤ、すごく頑張っているのに……)
○○「あの、ミヤも……」
ミヤ「○○ちゃん」
ミヤは私の言葉を遮ると、唇に人差し指をつけて微笑んだ。
ミヤ「ありがとう、オレのことなら気にしないで大丈夫だよ」
彼が、私の耳元でそっと囁いた。
男の子1「ミヤ様、魔術教えて~」
男の子2「ずる~い、ぼくにも教えて~」
ミヤを見つけた子ども達が、次々に集まってくる。
ミヤ「うん、もちろん。どんな魔術がいいかな?」
ミヤは、子ども達ひとりひとりに優しく答える。
(森で練習しようって言ってたのに……大丈夫かな?)
○○「ミヤ、練習は大丈夫?」
こっそりと耳元で伝えると、ミヤは少し困った顔をした後に小さく微笑んだ。
ミヤ「うん、後で猛特訓すれば大丈夫」
すると……
男の子「ミヤ様、見て!」
ミヤ「ん?」
輪の中にいた一人の男の子がミヤの袖を引っ張った後、両手を合わせて呪文を唱える。
すると次の瞬間、男の子の手のひらからキャンディーが飛び出した。
ミヤ「モーガ、また新しい魔術を覚えたのか! すごいなぁ」
ミヤが、モーガ君の頭を優しく撫でる。
傍にいたモーガ君の両親は、自慢げに彼を見つめていた。
モーガの父親「モーガは勉強が好きで、いつも魔術書を読んでいるんですよ」
モーガの母親「将来はイリア様のように優秀になってくれたら嬉しいなって思っています」
ミヤ「そっか。モーガなら、きっと大丈夫だよ」
モーガ君の両親に、ミヤが笑顔で答える。
その時だった。
○○「……?」
背後から視線を感じて振り返ると、男の子が木の影から私達の方をじっと見つめていた。
(あの子、なんでこっちに来ないのかな?)
○○「ミヤ、あの男の子……」
ミヤ「あっ、ルーガだ。あの子はモーガの弟なんだよ。 ルーガ! キミもこっちにおいで!」
ルーガ「……!」
ルーガ君は戸惑った顔をすると、踵を返して走り去ってしまった。
○○「あっ……」
ミヤ「……」
走り去るルーガ君の背中を、ミヤはずっと見つめている。
(……ミヤ?)
この時はまだ、私はミヤが抱いている気持ちに気づくことができなかった…―。