窓から差し込む暖かな日差しが、〇〇様の綺麗な髪を透かしている…-。
腕の中の彼女はどこまでも光り輝いていて、私は思わず目を細めた。
イリア「……伝承者の方に問われた時、私は自分の本当の心の内に気づきました。 ですが……実は、その気持ちをすんなりとは認められなくて。 認めたくないというか……自分にそんな感情があるなど、私はきっと知りたくなかったんです」
(……怖かった。そんな感情、持ってはいけないと思っていたから)
(自分が自分でなくなってしまうような気がして……)
〇〇「イリアさん……」
イリア「でも、〇〇様は私に言ってくれた。私は私だと」
思い出すだけで力が湧いてくる。
イリア「その言葉で、私は自分を認めることができた気がします。 他の誰でもない、貴方が言ってくれたから」
〇〇「そんな。私は…-」
イリア「気づいていないのかもしれませんが、貴方はゆっくりと私の心を解きほぐしてくれた……」
溢れる想いを彼女に伝え、私はハッと我に返った。
(私は、何をやっているんだ……!)
イリア「すみません! また私は……」
(困らせてしまった……?)
強く抱きしめていた〇〇様を、慌てて放す。
〇〇「いえ……」
彼女が長いまつ毛を伏せて、自分を落ち着かせるように胸に手をあてる。
(私も……落ち着かなければ)
(優しい彼女を、困らせてはいけない)
そう思いながら大きく息を吸った、その時……
??「イリア、いないの?」
扉の向こうから聞きなれた声が聞こえた。
イリア「今の声は……ミヤ?」
ぽつりとつぶやくだけで、返事をできずにいると……
ミヤ「さっきの魔術すごかったって伝えたかったんだけど、いないのかな……」
(え……? わざわざ、それを言いに……?)
(……嬉しい)
残念そうな声の後、ミヤが離れていく足音が聞こえた。
イリア「……っ!」
私はミヤを追いかけようと扉に駆け寄る。
しかし……
(その前に、どうしても……!)
私は踵を返し、〇〇様を抱き上げた。
〇〇「……! イリアさん……!?」
イリア「〇〇様……」
(ミヤに、堂々と向き合うために……伝えなければなりません)
(いえ、貴方に伝えたい)
イリア「もしも貴方のことでミヤとライバルになったとしても、私は負ける気はありませんよ」
〇〇「え……?」
イリア「なんとなく、そうなりそうな予感がしたんです。 私とミヤは、双子だからでしょうか。よく似ているんです。 好きな本や、好きな食べ物……」
(そして……)
驚くほど高鳴る鼓動をどうにか抑えながら、私は意を決して言葉を紡ぐ。
イリア「そして、好きな人も……」
〇〇「っ……! イリアさん、それって…-」
イリア「覚えていてください。これだけは……」
彼女の瞳をまっすぐに見据え、私は大きく息を吸う。
イリア「貴方を好きという気持ちは、ミヤには絶対に負けません。 同等でも嫌だ」
(……譲れません)
(この気持ちだけは、絶対に)
イリア「必ず勝ってみせるから……」
強く誓ってから、私は〇〇様をそっと下した。
イリア「……すみません、つい自分の感情が抑えられなくなってしまいました」
(いきなり抱き上げるだなんて、失礼なことをしてしまっただろうか)
(……だけど、伝えずにはいられなかった)
頬に熱を感じながら、私は彼女を見つめる。
そうして、わずかな間の後……
イリア「ミヤを追いかけないと。 行きましょう、〇〇様」
〇〇「はい……」
彼女の手を取り、一緒に部屋を飛び出す。
(ミヤに、伝えたい)
(すごかったと言ってくれて嬉しかったこと……お前に負けたくないと口にしたこと)
(……何より)
隣を走る彼女を横目で見ながら、胸にそっと手をあてる。
(〇〇様だけは譲れない、と)
(正々堂々と戦う。そして……絶対に負けない!)
イリア「ミヤ!」
私は、最大のライバルの背中に呼びかける。
心に芽生えた強い思いを込めながら…-。
おわり。