魔術の祭典はイリアさんの活躍によって大成功に終わり……
自室に戻ってから少しの後、私は彼の部屋へと向かった。
扉をノックすると、すぐにイリアさんが迎え入れてくれる。
〇〇「イリアさん、すごかったです! 私…-」
イリア「〇〇様……!」
〇〇「っ……!」
イリア「やりました!」
興奮した様子のイリアさんが、私を強く抱きしめた。
〇〇「イリアさん……」
彼の髪が頬に触れ、胸が一層高鳴る。
イリア「……伝承者の方に問われた時、私は自分の本当の心の内に気づきました。 ですが……実は、その気持ちをすんなりとは認められなくて。 認めたくないというか……自分にそんな感情があるなど、私はきっと知りたくなかったんです」
〇〇「イリアさん……」
イリア「でも、〇〇様は私に言ってくれた。私は私だと」
イリアさんはそう言った後、私の背中に回した腕にさらに力を込めた。
イリア「その言葉で、私は自分を認めることができた気がします。 他の誰でもない、貴方が言ってくれたから」
〇〇「そんな。私は…-」
イリア「気づいていないのかもしれませんが、貴方はゆっくりと私の心を解きほぐしてくれた……」
イリアさんはハッと慌てたように私から離れる。
イリア「すみません! また私は……」
〇〇「いえ……」
イリアさんが触れた場所が熱くて、胸の高鳴りが収まらない。
その時、部屋にノックの音が響いた。
〇〇「っ……!」
私達はお互いから視線を外すと、扉の方を見つめる。
??「イリア、いないの?」
扉の向こうから柔らかい声が聞こえた。
イリア「今の声は……ミヤ?」
驚いたような表情を浮かべるイリアさんが、ぽつりとつぶやく。
すると……
ミヤ「さっきの魔術すごかったって伝えたかったんだけど、いないのかな……」
残念そうな声が聞こえ、ミヤさんが離れていく足音が聞こえた。
イリア「……っ!」
イリアさんは私から離れると、扉へと駆け寄る。
けれど……
イリア「……」
扉に手をかけた状態で、イリアさんがぴたりと動きを止めた。
(イリアさん……?)
不思議に思って彼の背中を見つめていると…-。
〇〇「……! イリアさん……!?」
彼はこちらへと戻って来たかと思うと、私を高く持ち上げた。
(どうしてこんな……)
いつものイリアさんらしからぬ行動に、ただおろおろすることしかできなくて……
そんな私を、彼の真剣な瞳が射抜いた。
イリア「〇〇様……。 もしも貴方のことでミヤとライバルになったとしても、私は負ける気はありませんよ」
〇〇「え……?」
イリア「なんとなく、そうなりそうな予感がしたんです」
イリアさんの澄んだ青い瞳に囚われ、私はまばたきも忘れて彼を見つめる。
イリア「私とミヤは、双子だからでしょうか。よく似ているんです。 好きな本や、好きな食べ物……。 そして、好きな人も……」
〇〇「っ……!」
思いがけない言葉に、頬や耳が熱くなっていく。
〇〇「イリアさん、それって…-」
イリア「覚えていてください。これだけは……。 貴方を好きという気持ちは、ミヤには絶対に負けません。 同等でも嫌だ。 必ず勝ってみせるから……」
少しだけ砕ける彼の言葉と真剣な瞳が、私の心を捕らえて離さない。
けれど、少しの後…-。
イリア「……すみません、つい自分の感情が抑えられなくなってしまいました」
イリアさんは私を下ろすと、少し頬を赤く染めて微笑む。
熱を含んだ真剣な瞳は、いつもの優しいものへと変わっていた。
イリア「ミヤを追いかけないと」
イリアさんはそう言うなり、私の手を取る。
イリア「行きましょう、〇〇様」
〇〇「はい……」
彼の手の力強さに、私の胸はまた大きく高鳴るのだった…-。
おわり。