平原を抜け、私達は伝承者の方がいるという森へと入った。
イリア「ここが魔術の伝承者がいると聞いた場所なんですが……。 すみませんが、どなたかいらっしゃいませんか? イリアと申します。魔術の祭典のために術をご教授願えたらと思い、やって参りました」
伝承者「……小難し奴だ」
声がする方を振り向くと、木々の間からおじいさんが現れた。
伝承者「なぜわしの魔術を求める?」
イリア「それは、祭典を成功させるために」
伝承者「それは本心じゃあない」
イリア「本心じゃない? いったい、どういうことですか?」
伝承者「祭典を成功させるのなら、他にも魔術はたくさんあるだろう? それでもお前がわしの魔術を求めるのは、なぜかと聞いているんだ」
イリア「それは……」
イリアさんは顎に手をあて、真剣な面持ちで考え込む。
伝承者「己の心のありかさえわからん者に魔術は教えられん」
イリア「心のありか……。 ……こんな時、ミヤだったらどう答えているでしょうか」
〇〇「え……?」
イリア「ミヤならきっと……もっと上手く話せているんだろうな……」
〇〇「大丈夫です……! イリアさんの言葉で、誠実に話せばきっと伝わりますから」
イリア「私の言葉……」
ぽつりとつぶやいたイリアさんが、私をじっと見つめた。
〇〇「イリアさんは、イリアさんですよ。 私は、ほんの少しですけどイリアさんを見てきましたから」
イリア「……不思議ですね。他の誰かに言われても、私は素直に頷くことができないのですが。 でも、貴方に言われると、本当に自分がそのような強い人間だと思える気がします」
イリアさんの瞳に力が宿り、伝承者の方へと向き直る。
イリア「確かに他にも多くの魔術は存在します。ですが私は貴方の魔術を受け継ぎたいのです」
伝承者「それはなぜだ?」
イリア「それは、私には努力することしかできないので……そうしなければ私は、ミヤに……」
イリアさんは何かに気づいたようにハッと瞳を見開く。
彼自身も信じられないのか、その瞳は不安げに揺れていた。
イリア「負けたく……ないんです」
(イリアさん……)
イリア「弟に……ミヤに負けたくない。彼と対等になるためなら、自分ができることをすべてやり遂げたい……」
伝承者の方はイリアさんを見つめ、ニヤリと笑った。
伝承者「いいだろう……ついて来い」
イリア「! ……はい!」
イリアさんを連れて、伝承者の方は森の奥へと入っていく。
…
……
しばらくすると、イリアさんが戻って来た。
〇〇「イリアさん……」
イリア「お待たせしてすみません。城に帰りましょうか」
イリアさんは優しく微笑むと、私の手を握った。
〇〇「っ……!」
イリア「少しだけ、こうさせてください」
〇〇「はい……」
夕陽に赤く染まった平原を歩き出す。
繋いだ手が温かくて、心がくすぐったくなった…-。