第4話 心のありか

平原を抜け、私達は伝承者の方がいるという森へと入った。

イリア「ここが魔術の伝承者がいると聞いた場所なんですが……。 すみませんが、どなたかいらっしゃいませんか? イリアと申します。魔術の祭典のために術をご教授願えたらと思い、やって参りました」

伝承者「……小難し奴だ」

声がする方を振り向くと、木々の間からおじいさんが現れた。

伝承者「なぜわしの魔術を求める?」

イリア「それは、祭典を成功させるために」

伝承者「それは本心じゃあない」

イリア「本心じゃない? いったい、どういうことですか?」

伝承者「祭典を成功させるのなら、他にも魔術はたくさんあるだろう? それでもお前がわしの魔術を求めるのは、なぜかと聞いているんだ」

イリア「それは……」

イリアさんは顎に手をあて、真剣な面持ちで考え込む。

伝承者「己の心のありかさえわからん者に魔術は教えられん」

イリア「心のありか……。 ……こんな時、ミヤだったらどう答えているでしょうか」

〇〇「え……?」

イリア「ミヤならきっと……もっと上手く話せているんだろうな……」

〇〇「大丈夫です……! イリアさんの言葉で、誠実に話せばきっと伝わりますから」

イリア「私の言葉……」

ぽつりとつぶやいたイリアさんが、私をじっと見つめた。

〇〇「イリアさんは、イリアさんですよ。 私は、ほんの少しですけどイリアさんを見てきましたから」

イリア「……不思議ですね。他の誰かに言われても、私は素直に頷くことができないのですが。 でも、貴方に言われると、本当に自分がそのような強い人間だと思える気がします」

イリアさんの瞳に力が宿り、伝承者の方へと向き直る。

イリア「確かに他にも多くの魔術は存在します。ですが私は貴方の魔術を受け継ぎたいのです」

伝承者「それはなぜだ?」

イリア「それは、私には努力することしかできないので……そうしなければ私は、ミヤに……」

イリアさんは何かに気づいたようにハッと瞳を見開く。

彼自身も信じられないのか、その瞳は不安げに揺れていた。

イリア「負けたく……ないんです」

(イリアさん……)

イリア「弟に……ミヤに負けたくない。彼と対等になるためなら、自分ができることをすべてやり遂げたい……」

伝承者の方はイリアさんを見つめ、ニヤリと笑った。

伝承者「いいだろう……ついて来い」

イリア「! ……はい!」

イリアさんを連れて、伝承者の方は森の奥へと入っていく。

……

しばらくすると、イリアさんが戻って来た。

〇〇「イリアさん……」

イリア「お待たせしてすみません。城に帰りましょうか」

イリアさんは優しく微笑むと、私の手を握った。

〇〇「っ……!」

イリア「少しだけ、こうさせてください」

〇〇「はい……」

夕陽に赤く染まった平原を歩き出す。

繋いだ手が温かくて、心がくすぐったくなった…-。

 

 

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