人々が忙しく走り回るソルシアナ城で、イリアさんと再会した後…-。
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イリア『私と一緒に、新たな魔術を求める旅に』
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微笑むイリアさんの瞳が、きらきらと輝く。
〇〇「旅……ですか?」
イリア「ああ……旅と言っても、城からほど近い場所なんですが。 この通りの地図もありますし、これぐらいなら私でも一人で行けそうなので……」
慌てて地図を広げると、彼は私に道を指し示す。
イリア「すみません。私はあまり城から出る方ではないので、つい大げさに言ってしまいました……」
(イリアさん、顔が赤い……)
はしゃいでいるように見える彼を、なんだか微笑ましく感じた。
〇〇「旅、楽しそうですね」
イリア「はい。森の奥に住む、ある魔術の伝承者に会いに行くつもりなんです」
〇〇「魔術の伝承者?」
首を傾げる私に、イリアさんが一つ頷く。
イリア「この国は多くの魔術を有し、それを本にまとめているのですが……。 中には本には記載されない、言葉のみ伝わる魔術が存在するんです。 それを教えてもらって今度の祭典で披露できたら、少しは成功に貢献できるような気がして……」
〇〇「言葉でのみ伝わる魔術……」
(なんだか、私には想像もつかないけど……)
〇〇「すごいですね!」
イリア「い、いえ……褒めていただくほどのことでは……」
イリアさんは照れた顔を隠すように、眼鏡のフレームを直す。
イリア「まだ魔術も伝承していただいてはおりませんから、使いこなせるかもわかりませんし……。 ……でも。 ミヤも頑張っているので、私も頑張らないと……」
(ミヤさん……?)
双子の弟の名前を消え入りそうな声でつぶやいたイリアさんが、私の方へと向き直る。
イリア「それで、いかがでしょうか? 〇〇様」
〇〇「お邪魔でなければ、喜んで」
イリア「よかった。ではさっそく明日行きましょう。約束ですよ」
〇〇「はい……!」
互いに笑い合うと、私達は小指を絡ませた。
…
……
次の日の朝…-。
準備を整えて部屋を出ると、廊下の奥にイリアさんの姿を見つけた。
(イリアさん?)
イリア「……」
わずかに開いたドアの前で立ち尽くす彼が部屋の中を静かに見つめている。
(どうしたんだろう……?)
時折、驚きのような、それでいてどこかホッとしているような表情をイリアさんは浮かべてる。
やがて彼は何かを決意したように踵を返し、こちらへとやって来た。
〇〇「あ……」
イリア「〇〇様……」
私がいることに気づき、彼は視線を彷徨わせる。
〇〇「何を見ていたんですか?」
イリア「ええと、それは……」
イリアさんは困ったように、口元に指をあてて考え込む。
そして……
イリア「そろそろ行きましょうか。今の件は、道すがらお話ししますので」
〇〇「わかりました」
イリア「ありがとうございます」
彼の穏やかな声が、静寂の中に溶け込んでいった…-。
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