森の木々達が、不安げにざわめいている…ー。
ハク「……」
ハクさんと私は、盗賊達に囲まれてしまっていた。
盗賊1「ハク王子……今日こそ一緒に来てもらうぜ」
盗賊2「お前を餌に、国から莫大な金をむしり取ってやる」
ハク「……馬鹿馬鹿しい」
そうつぶやいたかと思うと、ハクさんは短刀を抜いて男達に向かって駆け出した。
その瞬間…ー。
○○「えっ……!?」
木の影から別の男が現れて、私は背後から捕らえられてしまった。
ハク「……!」
○○「……っ」
強い腕力で首元を絞められて、息が苦しくなる。
盗賊2「ハク王子、そこを動くな……」
ハク「○○……!」
(ハクさん……!)
○○「……っ」
のどに声が通らずに、息だけが漏れてしまう。
盗賊2「おとなしくしてもらおう。でないとこいつを……」
盗賊2「……!?」
その瞬間…ー。
ハクさんが風のようにこちらへ駆け寄り、私を捕らえている男を殴り飛ばした。
ハク「○○に触れるな……!」
ハクさんの顔は、歪んでいた。
男から解放され、ふっとその場に倒れ込みそうになった時…ー。
ハク「……!」
ハクさんが、しっかりと私を抱きとめてくれた。
ハク「大丈夫か……!」
○○「は……い……っ」
急に息が通るようになって、咳き込みながら答えると……
ハク「……」
ハクさんの表情が、恐ろしい形相に変化していく。
ハク「お前ら……!」
私をその場にふわりと降ろし、ハクさんは猛然と盗賊達に向かっていった。
盗賊「……!」
ハクさんの圧倒的な強さに、盗賊達がなぎ倒されていく。
(すごい……)
ハク「……許さない」
血を流し、もう動くことすらままならない盗賊達に、ハクさんは攻撃を続けようとする。
ハク「……もっと、もっと苦しめ……!」
盗賊1「ひっ……」
盗賊達が、恐怖に顔をひきつらせている。
○○「ハクさん……! もうやめて……!」
ハク「……!」
私の声に、ハクさんははっと我に返ったようだった。
ハク「……」
盗賊達は、一人残らず倒れていた。
ハク「○○……よかった。お前を守れて」
そう言って私に微笑みかけるハクさんの瞳は、どこか虚ろで…ー。
○○「あの……大丈夫ですか?」
ハク「ああ……これが、嬉しい、だろう? お前を守れて、嬉しい……それに、さっきの感情は……。 ハハハッ……!」
ハクさんの不適な笑い声が、静かな森の中に響き渡る。
(ハク、さん……?)
ハク「立てるか? 城へ戻るぞ」
ハクさんの表情は、怖いくらいにせいせいとしていて……
私はこの時、ハクさんの何かが変わってしまったことを心のどこかで感じ取っていた……
城へ戻ると、執事さん達が私達を見て驚きの声を上げた。
メイド「ハク様! ○○様……! お召し物がそんなに汚れて……!」
執事「いったい何があったのですか!?」
ハク「俺は今日、怒りを覚えたんだ」
慌てふためく執事さん達に、ハクさんは嬉しそうに報告をする。
ハク「怒りというのはいいな……この感情で、普段よりもずっと強くなれる気がする。 そうか、母もこんな気分だったのだな……ククッ」
(ハクさん……)
さきほどのハクさんの不敵な笑い声が頭によみがえる。
ハク「どうした……?」
戸惑う私の顔を、ハクさんが不思議そうに覗き込んできた。
ハク「どこか、怪我をしたのか……?」
○○「大丈夫、です……」
うわずった声でなんとか返事をした、その時…ー。
○○「……!」
ハクさんが突然、私を抱きしめた。
○○「ハクさん……?」
ハク「お前が危ない目に遭うことが許せない……。 だから、これからは、いつでもお前を守る」
私の髪を指でなぞりながら、ハクさんが微かに笑い声をこぼす。
ハク「これが……大切だということだろう? お前がそれを教えてくれたんだ」
ハクさんは、折れてしまうかと思うほどに強い力で私を抱きしめる。
ハク「これが……好きということなのだろう?」
○○「え……」
ハクさんの腕に抱きしめられたまま、私は自分の感情を探していた。
この腕の力にほっとしているのか、それとも恐ろしいと感じているのか……
(わからない……)
ハク「そうだ……俺は、お前が好きだ。 お前は……?」
言葉にできない気持ちを抱えながら確かにわかるのは、彼の鼓動がとても早いことだけで……
ハク「○○……」
彼の唇が、私の首筋に落とされる。
(これがハクさんの、感情……?)
○○「ハクさん……今、どんな気持ちですか……?」
ハク「心が、満たされている。とてもいい気分だ」
(これで……よかったんだよね……)
ハクさんの腕を拒むことは、私にはできなくて……
彼の熱い手に、そっと自分の手を重ね合わせたのだった…ー。
おわり