ハクさんの瞳が、鋭い光を帯びている……
(どうしたんだろう……)
○○「あの……」
声をかけようとすると、うさぎがハクさんの足の周りを飛び跳ねる。
すると、うさぎに向けられた彼の視線から鋭さが消えていった。
ハク「……」
○○「もうすっかり治ったみたいですね。 そうだ、この子を森へ帰してあげませんか? 森なら、きっとこの子の仲間もいると思いますし」
ハク「森……」
私の提案に、ハクさんが少し表情を曇らせたように思えた。
ハク「森は、また盗賊が現れるかもしれない。危険、だ……。 あの男……お前を見て、笑っていた……」
盗賊の男が去り際に私に見せた、不敵な笑みを思い出す。
(気づいてたんだ……)
その時、私はハクさんの体が小刻みに震えていることに気づいた。
○○「ハクさん……?」
ハク「お前があいつらに何かされたらと思うと……。 胸の奥が、黒いものに支配されていくような気がする」
ハクさんは私に向き直り、低く重い声で言葉を発した。
(……っ)
ハクさんの瞳に、今度は戸惑いが映し出されていく……
ハク「これは……何なんだ? 教えてくれ……!」
○○「ハクさん……っ!?」
戸惑いながら私の肩を掴むハクさんのあまりの力強さに、思わず声が出てしまう。
○○「……っ」
(ハクさんが、少し怖い……)
その時……うさぎが無邪気に私達の周りを飛び回った。
ハク「……」
ハクさんから、少しずつ怒気が薄れていく。
ハク「……お前がそうしたいなら、うさぎは森へ帰そう。だが……。 お前を傷つける奴は、俺が許さない」
冷徹な響きを含んだハクさんの声が、耳に残って離れなかった……
その翌日…ー。
ハクさんと私は、森へうさぎを帰しに来ていた。
○○「元気でね」
ハクさんが抱いているうさぎをそっと降ろすと……
うさぎは元気よく私達の周りを飛び跳ねて、森の中へと帰って行った。
○○「よかったですね……」
ハク「……よかった、か」
ハクさんは、うさぎが駆けて行った方向を静かに見つめていた。
(昨日のハクさんはちょっと怖かったけど……)
穏やかなハクさんの瞳に、ほっと胸を撫で下ろす。
その時…ー。
ガサリ、と不自然な物音が静寂を破る。
○○「……っ」
物音がした方に、なぜだか嫌な気配を感じて……
○○「ハクさん……」
思わず、ハクさんの服を掴んでしまう。
ハク「……大丈夫だ」
ハクさんは、私を安心させるように優しく抱き寄せてくれる。
ハク「出てこい」
○○「……!」
ハクさんの声に、木の影から見覚えのある一人の男が姿を現す。
盗賊1「なんだ。バレてたか」
○○「……っ!」
それはこの間、森で私達を襲ってきた男だった。
盗賊1「一人じゃかなわねぇからな。今日は、仲間を連れてきた」
気がつくと、複数人の男達がいつの間にか私達を囲んでいた。
(どうしよう……)
ハク「……」
ハクさんを見上げると、彼は驚くほど静かに男達を見据えていた。
その瞳の色は、昨日見たあの鋭さを暗くたたえていた…ー。