穏やかな昼下がり…ー。
穏やかな風が時折、ハクさんの薄茶色の長い髪を揺らしている…ー。
風の音が際立つほどに静かなまま、アフタヌーンティーは続いていた。
ハク「……」
○○「……」
(会話が止まってしまう……)
お互いが好きな本についての話題を最後に、また沈黙が訪れていた。
なんとなく気まずさを感じて、テーブルに視線を落とすと……
(……あれ?)
ハクさんが、私の作ったクッキーを全部食べてくれていた。
○○「……」
おいしかったですか、と聞きたかったけれど…ー。
ハク「……」
ハクさんは無言で席を立ち、そのまま城の中へ入っていった。
(全部、食べてくれた……)
胸にふわりと温かい気持ちが広がっていく。
私はしばらくの間、空っぽになったお皿を見つめていた…ー。
翌日…ー。
今日も空は晴れていて、静かに太陽の光が降り注いでいる。
(気持ちいい風……)
風に頬を撫でられながら、中庭を散歩していると、黄色の花びらをつけたお花が、太陽の光を受けて鮮やかに咲いていた。
(綺麗なお花……)
その時、上から誰かの視線が落とされていることを感じる。
見上げるとそこには……
ハク「……」
○○「ハクさん……!」
ハクさんは昨日と変わらず、無表情で私をじっと見つめている。
○○「あの……ハクさん……?」
ハク「……その花。 その花が、どうかしたのか」
○○「あっ……はい! 綺麗なお花だなって思って……」
ハクさんが口を開いてくれたことに驚いて、声が裏返る。
ハク「きれい……なのか?」
ハクさんの表情は変わらないままだけど、眉がぴくりと動いたのが見えた。
○○「とても綺麗な色だなって……そう、思いませんか?」
ハク「俺にはわからない」
そうつぶやくと、彼はおもむろにどこかへ歩き出そうとした。
○○「あのっ……」
ハク「何だ」
(思わず呼び止めてしまったけど……どうしよう)
ハク「……」
彼は、私をじっと見つめながら立ち止まっている。
ハク「その花を見ると、嬉しいのか」
○○「えっ……」
ハク「嬉しそうに見ていただろう」
(なんだか……恥ずかしい)
ハク「……ついて来い」
そう言うと、彼はまた静かに歩き出した。
○○「えっ……はいっ……!」
思いがけない言葉に、私も立ち上がって、彼の大きな背中を追った……
ハクさんに連れられ、城の裏手にある草原にたどりつくと…ー。
○○「すごい……綺麗……!」
先ほどのお花が一面に咲き誇り、辺りはまばゆいばかりの黄色に染め上げられていた。
ハク「……きれい……」
目を輝かせる私を見ながら、ハクさんは首を傾げている。
その様子がなんだか可愛くて、頬が思わず緩んでしまった。
その時…ー。
○○「あ……」
少し離れたところから、一羽のうさぎが私達をじっと見ている。
○○「ハクさん、うさぎですよ! かわいい……!」
ハク「……」
近づいても逃げる気配はなく、私はそのうさぎを抱き上げた。
○○「あっ……」
そこで初めて、うさぎが前脚に傷を負っていることに気づく。
○○「かわいそう、怪我をしてしまって……野犬か何かに襲われたのかな……」
ハク「……かわいそう?」
私とうさぎのところにゆっくりと近づいて来たハクさんが、首を傾げた。
ハク「お前は今、何を考えている?」
○○「えっ……。 ……うさぎがかわいそうで、悲しいです」
ハク「かなしい……」
しばらく何かを考え込んだ後、ハクさんはうさぎを私から取り上げた。
ハク「お前の言葉は……抽象的な表現ばかりでわかりにくいが。 城で、手当てをすればいいのだろう?」
(ハクさん……)
○○「はい!」
ハクさんの細くてしなやかな腕に抱かれたうさぎが、お礼をするように頭をすり寄せる。
ハク「……」
ハクさんは、不思議そうな顔をしながらうさぎの背を撫でた。
○○「かわいいですね」
ハク「かわいい……」
(あっ……)
ハクさんが、ほんの一時優しく目を細める。
ハク「そうか、これがかわいいか」
(今、笑った……?)
初めて見たハクさんの笑顔に、嬉しさで胸がいっぱいになる。
気がつくと、私も自然に笑顔になっていた…ー。