第2話 綺麗な人形

静まり返る森の中を、ハクさんと二人で歩く……

ハク「……」

身長の高いハクさんの歩幅は大きく、私はついていくことに精一杯になっていた。

その時…ー。

○○「あ……」

前方に茨が絡み合って、行く手を阻んでいるのが見えた。

(これじゃ、通れない……)

ハク「……」

ハクさんは、そのまま茨の生い茂った中へ進もうとする。

○○「ハクさん! ……危ない!」

声をかけたけれど間に合わず、ハクさんは茨に手を触れてしまった。

ハク「……」

○○「ハクさん! 手から血が……大丈夫ですか!?」

ハク「……別に」

ハクさんは傷を一瞥すると、まるで何事もなかったかのように別の道を歩き出した。

(……大丈夫かな)

城へたどり着くと、執事さんとメイドさん達が出迎えてくれた。

執事「ようこそいらっしゃいました。○○様。ハク様とご一緒だったのですね」

○○「はい。森で会って、連れてきてもらいました」

メイド1「ハク様、お帰りなさいませ」

ハク「……」

執事「おや、手にお怪我を……! すぐに手当てをさせましょう」

けれどハクさんは、執事さんやメイドさんの間をすり抜け、廊下の奥へと消えて行ってしまった。

○○「ハクさん……?」

執事「お気になさらないでください。ハク様は……あまり感情を表されないお方でして」

メイド3「というより、感情がないんじゃないかしら?」

メイド2「私、ハク様の表情が変わったところ見たことないわ」

メイド1「ほら、王妃様がお亡くなりになった時も……」

(え……?)

執事「静かに! ○○様の前ですよ」

メイドさん達がひそひそと話していると、執事さんがそれをたしなめた。

執事「○○様、お疲れでしょう。お茶を淹れますね」

○○「あ……良かったらこれ、どうぞ。つまらないものですが」

ご招待の手土産に、私は手作りのクッキーを持ってきていた。

執事「お心遣い有難うございます。では、ハク様もお呼びして、アフタヌーンティーにしましょう」

中庭に出ると、執事さんがテーブルをしつらえ、お茶の用意をしてくださっていた。

紅茶のカップの隣に綺麗なお皿が置かれ、私の作ったクッキーが並べられている。

ハク「……」

○○「……」

アフタヌーンティーが始まってからずっと、この沈黙が続いている。

(何か……話さなきゃ……)

○○「あの、ハクさんは森で何の本を読んでらっしゃったのですか?」

ハク「……哲学書だ」

私の質問に、ハクさんはつぶやくように答えてくれた。

(哲学……私にはわからない……なんて、答えれば)

会話を続けるにも言葉が見つからず、一人で慌てていると……

ハク「お前は?」

○○「え?」

ハク「お前は、何の本が好きなんだ」

ハクさんから、質問が投げかけられた。

○○「わ、私は……恋愛の物語が、好きです」

ハク「……物語? 物語など、わからない。 人が突然笑ったり泣いたり……理解できない」

(ハクさん……?)

ー----

執事『お気になさらないでください。ハク様は……あまり感情を表されないお方でして』

メイド3『というより、感情がないんじゃないかしら?』

ー----

(ハクさんは……感情が、ない?)

ハク「……」

私のクッキーを食べている間も、彼の表情は変わらなくて……

まるで綺麗な人形のよう、と思ってしまうのだった…ー。

 

 

<<第1話||第3話>>