静まり返る森の中を、ハクさんと二人で歩く……
ハク「……」
身長の高いハクさんの歩幅は大きく、私はついていくことに精一杯になっていた。
その時…ー。
○○「あ……」
前方に茨が絡み合って、行く手を阻んでいるのが見えた。
(これじゃ、通れない……)
ハク「……」
ハクさんは、そのまま茨の生い茂った中へ進もうとする。
○○「ハクさん! ……危ない!」
声をかけたけれど間に合わず、ハクさんは茨に手を触れてしまった。
ハク「……」
○○「ハクさん! 手から血が……大丈夫ですか!?」
ハク「……別に」
ハクさんは傷を一瞥すると、まるで何事もなかったかのように別の道を歩き出した。
(……大丈夫かな)
城へたどり着くと、執事さんとメイドさん達が出迎えてくれた。
執事「ようこそいらっしゃいました。○○様。ハク様とご一緒だったのですね」
○○「はい。森で会って、連れてきてもらいました」
メイド1「ハク様、お帰りなさいませ」
ハク「……」
執事「おや、手にお怪我を……! すぐに手当てをさせましょう」
けれどハクさんは、執事さんやメイドさんの間をすり抜け、廊下の奥へと消えて行ってしまった。
○○「ハクさん……?」
執事「お気になさらないでください。ハク様は……あまり感情を表されないお方でして」
メイド3「というより、感情がないんじゃないかしら?」
メイド2「私、ハク様の表情が変わったところ見たことないわ」
メイド1「ほら、王妃様がお亡くなりになった時も……」
(え……?)
執事「静かに! ○○様の前ですよ」
メイドさん達がひそひそと話していると、執事さんがそれをたしなめた。
執事「○○様、お疲れでしょう。お茶を淹れますね」
○○「あ……良かったらこれ、どうぞ。つまらないものですが」
ご招待の手土産に、私は手作りのクッキーを持ってきていた。
執事「お心遣い有難うございます。では、ハク様もお呼びして、アフタヌーンティーにしましょう」
中庭に出ると、執事さんがテーブルをしつらえ、お茶の用意をしてくださっていた。
紅茶のカップの隣に綺麗なお皿が置かれ、私の作ったクッキーが並べられている。
ハク「……」
○○「……」
アフタヌーンティーが始まってからずっと、この沈黙が続いている。
(何か……話さなきゃ……)
○○「あの、ハクさんは森で何の本を読んでらっしゃったのですか?」
ハク「……哲学書だ」
私の質問に、ハクさんはつぶやくように答えてくれた。
(哲学……私にはわからない……なんて、答えれば)
会話を続けるにも言葉が見つからず、一人で慌てていると……
ハク「お前は?」
○○「え?」
ハク「お前は、何の本が好きなんだ」
ハクさんから、質問が投げかけられた。
○○「わ、私は……恋愛の物語が、好きです」
ハク「……物語? 物語など、わからない。 人が突然笑ったり泣いたり……理解できない」
(ハクさん……?)
ー----
執事『お気になさらないでください。ハク様は……あまり感情を表されないお方でして』
メイド3『というより、感情がないんじゃないかしら?』
ー----
(ハクさんは……感情が、ない?)
ハク「……」
私のクッキーを食べている間も、彼の表情は変わらなくて……
まるで綺麗な人形のよう、と思ってしまうのだった…ー。