城の中に戻ると、辺りはしんとした静けさが広がっていた。
しかしその時、蝶番が軋むような奇妙な音がどこからか響いてきた。
〇〇「城の奥の方からみたい……」
レオニーが先頭に立ち、私の手を握ってくれる。
こうしてしばらく灯りの乏しい回廊の中を進めば…-。
人形兵「……!?」
〇〇「レオニー、あそこ!」
暗がりの中で、人形兵達が怪しい動きで立ち上がるのが見えた。
レオニー「勇気を手に入れたオレは無敵! この泣く子も黙るシンヴァ領のレオニーに、かかってこいっ!!」
大声を張り上げたかと思うと、レオニーは勇猛果敢に人形兵達に向かっていった。
レオニー「はああぁぁっ!」
レオニーの動きは、まさに野生の肉食獣のようだった。
目にも留まらぬ動きで、人形兵達の大群を一体残らず倒していく。
(すごい……レオニーって、本当はこんなに強かったんだ)
彼の流れるような動きに思わず見とれてしまう。
こうして5分も経たずに、人形兵達はただのスクラップになってしまったのだけれど…-。
レオニー「ん? なんだこれ、人形にメモが……」
〇〇「え?」
よく見ると、壊れた人形兵の背中に文字が書きつづられていた。
レオニー「ええと。『君のいない間は、この人形達に城を守らせておくよ、オズワルド』……」
〇〇「……オズワルドって、レオニーの言ってたオズワルドさん?」
レオニー「どういうことだああー!?」
レオニーの叫ぶような声が、夜の城に大きく響いた……
私達はその後、城の屋上へとやってきた。
見上げる夜空には、美しい星々が輝いている。
〇〇「結局、幽霊じゃなくて、オズワルドさんが置いていった人形だったんだね」
レオニー「そうだな、これで街の皆も安心だ! けどオズワルドのヤツ、どうせならあんな人形じゃなくて、勇気を置いてけっての! あっ、でも今のオレには〇〇からもらった勇気があるから、もういいか!」
満足そうな目をして、レオニーが自分の胸に手をあてる。
彼は夜空に両手を突き出すようにして大きく吠えた。
レオニー「やっぱ勇気は偉大だ! 勇気があればなんだって…-」
〇〇「それは違うと思うよ、レオニー」
レオニー「は? どうしてだ……?」
私の言葉を聞いて、レオニーが眉を寄せる。
〇〇「……私、勇気なんてあげてないよ。 だから、もともとレオニーは、勇気を持っていたんだよ」
レオニー「へ!?」
青い目を丸くして、レオニーが調子はずれな声を上げる。
少しの間を置いて、彼の瞳に不安の色が広がった…-。
レオニー「でも、なんなんだよ、じゃあ……この胸の高鳴りは……?」
〇〇「え……」
切なそうに目を細め、彼は私の手を取り、自らの胸にあてる。
とく、とく、とく……と、手のひらを通じて彼の鼓動が私に伝わる。
(少し、早い……)
レオニー「教えてくれ! じゃあアンタにもらったコレはなんなんだ! この胸の底が温かくなるような気持ちが、もし勇気じゃないなら……」
ぎゅっと、私の手を彼の大きな手が握りしめる。
私の鼓動が、彼の心臓と同じスピードを刻み始めて……
レオニー「だって、こんなにドキドキしてるんだぞ? なんなんだよ、これ……」
ほのかな月明かりに、彼の瞳が不安げに揺れる。
〇〇「……私もだよ、レオニーと同じようにドキドキしてる……。 きっとこれは…-」
レオニー「〇〇……?」
(――生まれたばかりの恋心……?)
だけどその言葉は胸に大切にしまって、私は静かに彼の腕へ体を預ける。
そんな私達の姿を、月だけが優しく照らしていたのだった…-。
おわり。