薄気味悪い夜が、私達の叫び声を簡単にかき消す。
人形兵が手を振り上げるのを見て、私の体は勝手に動いていた。
○○「痛っ……」
レオニー「○○っ!?そんな……どうして!」
○○「……だ、大丈夫……かすり傷だから……」
人形兵の攻撃から彼を救うために、とっさに身を投げ出した私の腕からは、かすかに血が流れていた。
レオニー「そんな……オレの……オレのために……オレに勇気がないばっかりに……!」
○○「レオニー……?」
それまでに聞いたこともない、腹の底から出したような低い声に、私は彼を見上げた。
レオニー「よくも……よくも○○を……!」
私の体を抱きかかえたレオニーの瞳に、熱いものが宿るのが見えた。
(この光は…―)
その瞳にくるめいたものが、とても綺麗に見えて、私は思わず手を伸ばした。
その手が、レオニーの熱い手にしっかりと握られる。
レオニー「ごめん、○○……オレ、アンタが何を言おうとしてたかわかった。だから……っ!」
彼は人形兵から守るように私を自分の背後にかばい、迫りくる大群を真っ直ぐに見据えた。
レオニー「うわああぁぁっっ!!」
獣のような咆哮が、あたりに響く。
レオニー「これ以上……○○に手を出させてたまるか!」
右手を空高く突き上げたかと思えば、彼はがむしゃらに私を傷つけた人形兵に拳を振り下ろした。
人形兵「……っ!?」
まずは一体、人形兵が背を砕かれ、ガラクタと化して床に散らばる。
それを見て、その場にいた残りの人形兵たちが慌てふためき、逃げを打つ。
しかし…―。
レオニー「させるかっ!!○○は絶対に守る……!勇気はなくたって、弱くたって、この城も、街の人達だって……オレが必ず守るんだ!!」
レオニーは素早く人形兵たちの退路を断ち、もう一度拳を振り上げた。
一体、二体と、レオニーが拳を振るうたびに、人形兵が倒されていく。
人形兵「……っ!?」
その時、逃げ場を失った最後の一体がレオニーに突進した。
○○「レオニー、後ろ!」
レオニー「はぁぁぁぁぁっ!!」
私の声にすぐさまレオニーは身をひるがえし、次の瞬間、強烈な一撃を人形兵にお見舞いしたのだった。
レオニー「○○……○○っ!!」
人形兵を掃討したレオニーが、私の元に駆け寄る。
彼は今にも泣きそうに目を潤ませていた。
○○「レオニー……」
労うように、小さく震える背中を抱きしめる。
レオニーの背中は、先ほどまでの勇敢な姿が嘘のように、小刻みに震えていた。
(きっと本当は怖かったはず、でも勇気を振り絞ってくれた……)
○○「……ありがとう」
レオニー「っ、必死だったんだ……○○のこと、どうしても守りたいって思ったから……」
○○「うん、勇敢で……とってもかっこよかったよ」
レオニー「え……オレが、勇敢……?」
○○「うん、ちゃんとレオニーの中に、最初から勇気はあったんだよ」
レオニー「そう……だったのか」
○○「うん……」
何かのせいにするのはやめて、目の前の困難に立ち向かう。
その心こそ本物の勇気だと、私は逆に彼に教えられたような気がした。
レオニー「ありがとう、オレに勇気があったとしたら、アンタのおかげだ」
私の体を抱きしめ返して、彼が言う。
その時…―。
彼のすぐ後ろで、すでに倒された人形兵が、煙を吹き出し小さく弾けた。
レオニー「うわあぁぁっ!?」
○○「だ、大丈夫だから」
すぐさま飛び上がったレオニーが、怯えて再び私に抱きつく。
彼の死角に、一枚の紙が煙に紛れて舞い落ちた。
(……?何か書いてあるみたい)
そっとその紙切れを拾ってみると……
『レオニーへ 君のいない間、この人形兵たちに城を守らせておくよ♪
――オズワルド』
(これは……オズワルドさんからの手紙?じゃあ、この人形って……。でも、今は伝えない方がいいかな……)
レオニー「な、な、なんなんだ!!」
そんな手紙があったことも知らずに、レオニーは必死で私にすがりつく。
○○「大丈夫だよ……大丈夫」
ようやく芽生えた小さな勇気を称えるように……私は、これから大きくなるだろう彼の背中を、いつまでも撫で続けたのだった…―。
おわり。