第3話 城の噂

賑やかなシンヴァの街に入るなり、目覚めたばかりのレオニーを人々が囲んだ。

レオニー「……くそう……勇気さえあれば……」

その中で、彼の小さなつぶやきが、私だけに届いたのだけど…-。

そんなことは露知れず、人々はレオニーを囲んで、噂話を始める。

街の人々1「そういえば、レオニー様がお留守の間に、どうやら城に幽霊が住み着いていたみたいなんですよ……」

レオニー「は!? ゆ、ゆゆゆ幽霊!? そんな、オレの城に……」

見る間に彼の顔が青くなる。

〇〇「大丈夫、レオニー?」

明らかに怖がっている様子の彼が心配になり、問いかける。

レオニー「なっ、なんでオレに聞くんだよ、怖いわけないに決まってるだろ! このオレにかかれば幽霊くらいどうってこと…-」

しかしその時、私達の背後で大きな物音が鳴った。

レオニー「ひいいいぃっ!?」

途端、レオニーは飛び上がり、後ろを振り向く。

店主「あ、すみません、売り物が落ちてしまいまして」

どうやら骨董品を扱う屋台の店主が、皿を割ってしまったらしい。

レオニー「なんだ……驚かせるなよ!」

レオニーは額に汗を掻きながら、胸元を強く握りしめている。

(あまり大丈夫じゃないみたい……)

太陽はそろそろ西の空に消えようとしており、薄暗くなってきた大通りには街灯がともり始める。

街の人々2「あら、いけない、そろそろ帰らないと」

人々も一人、二人とその場を離れていき、私達二人だけが残される。

レオニーは城のある方角を見つめて肩を震わせた。

レオニー「くそっ……くそおっ!! 幽霊とか、どうすればいいんだよ……。 怪談話は特に苦手だっていうのに……」

生温かい風が足元を駆け抜けていく。

レオニーはうつむいて、両手をせわしなく組み始めた。

レオニー「勇気さえ見つければ……前みたいに、オレはなんだってできるのに!」

(勇気を見つける? 何か事情があるのかな?)

〇〇「勇気が見つかればって、何かあったの?」

レオニー「それは……」

彼は言い淀み、視線を彷徨わせる。

(話したくないのかな?)

レオニーは喉を鳴らして、城の方に足を踏み出す。

しかしその足が微かに震えている。

〇〇「怖いなら、私もついて行く?」

レオニー「こ、こここ怖がってなんかねえよ! オレは、ただ……。 ほら、もし幽霊の正体が小動物とかだったら、追い出したりしたら可哀想だろ……! だから別に、その…-」

レオニーの指先が戸惑いがちに、私の指先を探る……

そっと触れてきた手は、汗に湿っていて、彼の中の恐怖が私に伝わってきた。

〇〇「頑張って、レオニー」

レオニー「う、うん……」

弱々しい繋がりだった手が、きつく握りしめられる。

心臓が少しだけ早く鳴り始めたのは、恐怖かそれとも…-。

私達は夜が来てしまう前に、急ぎ城へ歩き出したのだった…-。

 

 

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