賑やかなシンヴァの街に入るなり、目覚めたばかりのレオニーを人々が囲んだ。
レオニー「……くそう……勇気さえあれば……」
その中で、彼の小さなつぶやきが、私だけに届いたのだけど…-。
そんなことは露知れず、人々はレオニーを囲んで、噂話を始める。
街の人々1「そういえば、レオニー様がお留守の間に、どうやら城に幽霊が住み着いていたみたいなんですよ……」
レオニー「は!? ゆ、ゆゆゆ幽霊!? そんな、オレの城に……」
見る間に彼の顔が青くなる。
〇〇「大丈夫、レオニー?」
明らかに怖がっている様子の彼が心配になり、問いかける。
レオニー「なっ、なんでオレに聞くんだよ、怖いわけないに決まってるだろ! このオレにかかれば幽霊くらいどうってこと…-」
しかしその時、私達の背後で大きな物音が鳴った。
レオニー「ひいいいぃっ!?」
途端、レオニーは飛び上がり、後ろを振り向く。
店主「あ、すみません、売り物が落ちてしまいまして」
どうやら骨董品を扱う屋台の店主が、皿を割ってしまったらしい。
レオニー「なんだ……驚かせるなよ!」
レオニーは額に汗を掻きながら、胸元を強く握りしめている。
(あまり大丈夫じゃないみたい……)
太陽はそろそろ西の空に消えようとしており、薄暗くなってきた大通りには街灯がともり始める。
街の人々2「あら、いけない、そろそろ帰らないと」
人々も一人、二人とその場を離れていき、私達二人だけが残される。
レオニーは城のある方角を見つめて肩を震わせた。
レオニー「くそっ……くそおっ!! 幽霊とか、どうすればいいんだよ……。 怪談話は特に苦手だっていうのに……」
生温かい風が足元を駆け抜けていく。
レオニーはうつむいて、両手をせわしなく組み始めた。
レオニー「勇気さえ見つければ……前みたいに、オレはなんだってできるのに!」
(勇気を見つける? 何か事情があるのかな?)
〇〇「勇気が見つかればって、何かあったの?」
レオニー「それは……」
彼は言い淀み、視線を彷徨わせる。
(話したくないのかな?)
レオニーは喉を鳴らして、城の方に足を踏み出す。
しかしその足が微かに震えている。
〇〇「怖いなら、私もついて行く?」
レオニー「こ、こここ怖がってなんかねえよ! オレは、ただ……。 ほら、もし幽霊の正体が小動物とかだったら、追い出したりしたら可哀想だろ……! だから別に、その…-」
レオニーの指先が戸惑いがちに、私の指先を探る……
そっと触れてきた手は、汗に湿っていて、彼の中の恐怖が私に伝わってきた。
〇〇「頑張って、レオニー」
レオニー「う、うん……」
弱々しい繋がりだった手が、きつく握りしめられる。
心臓が少しだけ早く鳴り始めたのは、恐怖かそれとも…-。
私達は夜が来てしまう前に、急ぎ城へ歩き出したのだった…-。